そして今日も朝日が昇る

 夏休みも残る所数日となった。

 普段なら憂鬱で仕方のないところだが、今日の俺は違う。

 ああ、朝の光が気持ちいい……朝はいいな……。


 昨晩から、生まれ変わったような気がする。

 それもこれも、二菜との関係が自分のなかでちゃんとある程度の形になったからだろう。


「さて、二菜が来る前に、シャワーでも浴びておくか……」


 妹!!!


 の二菜に、かっこ悪いところ見せられないからな。

 その後は、珈琲でも入れてやろう。

 あっ、朝ごはんの準備をしてやるか? パンくらいなら俺でも焼けるしな。

 それにしても……。


「はー、朝日が眩しい……。」


 * * *



 それから1時間もしないうちに、二菜がやってきた。

 いつもより早く起きている俺を見て、目を丸くしているのが可愛い。


「あ、あれっ、先輩、こんなに早く起きてるなんて珍しいですね?」

「おはよう二菜、まぁ、たまにはな……あ、珈琲飲むか?」

「あ、はい、頂きます……」


 自分の分と一緒に二菜の珈琲を入れ、手渡してやる……と、同時に、二菜の隣に座った。

 いつもはまず対面に座る俺が、自分から隣に座ったのが不思議なのか、ぱちりと瞬きをして、俺を見てきた。

 可愛い。


「あ、あのー……先輩、なんか近くないですか?」

「ん、そうか? いつもこんなもんじゃなかったっけ」

「いえ、いつもこんな感じだとは思うんですけど……?」

「じゃあ、いいんじゃないのか?」

「うーん……いいのかな……いや、いいのか……?」


 チラリと横目で二菜を見ると、首をかしげるたび、肩口でさらさらと揺れる二菜の髪が目に入った。

 いつも思ってたけど、ほんとこいつの髪って綺麗だよなぁ。

 さらさらで、傷みなんて全然見えないし……絹糸みたいで、触ったら気持ち良さそうだ……。


「いや! いいんです! 先輩から隣にすわっ……ひえっ!?」

「あ、悪い、つい」


 気がつくと俺は、二菜の髪を手に掬い取っていた。

 あー、やっぱり思った通り、さらさらしてて気持ちいい……。


「あ、あのあの、先輩、なんで急に髪を!?」

「なんか、凄いさらさらで綺麗だし、触って見たくなったんだよな……嫌だったか?」

「い、いえーっ! ど、どうぞ先輩の気がすむまで……っ!!」



 二菜のお許しが出たので、ありがたく触らせてもらう事にしよう……それにしても、本当に気持ちがいい。

 今までこうして触らせてもらわなかったのが、勿体ないと思えてしまう。

 顔を赤くしている二菜も可愛いし、二つ、得をした気分だ。

 ……妹の髪を触るくらいは、普通のスキンシップだよな、うん。


「それにしてもこれだけ綺麗だと、手入れとか大変そうだな」

「そ、そうですね、まぁ、人並みには……」

「女の子ってそういうの、ほんと大変そうだよな……男でよかったよ、俺」


 絶対こんな手入れとかできないで、あちこち絡ませちゃうと思う。

 下手したら今よりも短くなってるかもしれん。

 そう思うと、二菜の努力が見えてくるというものだ。


「くふふ、でも、先輩がこうやって気持ちいいって触ってくれると、頑張った甲斐があるなって思います」

「うあ……」


 おいばかやめろ、何可愛いこと言ってんだよお前。

 こいつは妹、こいつは妹、こいつは妹……っ!


「あ、先輩の髪……」

「ん?」

「先輩の髪も、ちゃんと手入れしないと、ちょっと痛んでますよ?」


 そう言うと、二菜の細い指が、そっと俺の額に触れてきた。

 瞬間的に、俺の顔に血が集まっていくのがわかる。

 ていうか二菜の顔が近い近い近い近い近い………!


 それに気付かず、俺の髪を撫でる二菜と俺の鼻がくっつきそうな距離まで近づき……。

 ここここいつは妹……っ!


「む、無理っ!」

「わわっ……!」


 その状況に耐えきれなくなった俺はつい、二菜の頭を自分の胸に押し付けるようにして避けてしまった。

 危ない……あれ以上進むと、『妹』だなんて口が裂けても言えなくなるぞ……!


「あ、あの、先輩……」


 それにしても二菜も二菜だ。

 前々から思ってたけど、ちょっと無防備すぎるんだよ。

 俺のこと、男だって意識してないのか? そんなんだから俺は……。


「先輩っ」

「あ、ごめん、どうし……」


 ん?

 あれ、なんで二菜の頭のてっぺんが見えてるんだ?

 そして、俺の右手が二菜の後頭部で……顔が……俺の胸元にぴったり……あれぇ……?


「先輩の心臓……すごくドキドキ言ってます……」

「あー……」


 や、やってしまった……!

 これ、完全に二菜を胸に抱き込む形ですよね!?

 しかも自分から離れるな、って言わんばかりの!

 これは妹にしても大丈夫なやつ?

 大丈夫なやつかな!?


「ふ、不整脈! 不整脈があるんだ、俺……!」

「くふふ、不整脈、ですかー……」


 二菜の手が、俺の胸にそっと触れる。

 ああまずい、それ以上はいけない……!


「くふふ……てっきり先輩はー、『妹』に興奮する変態さん、なのかと思いました♡」

「ぐう……」


 俺は別に、妹だからこんなに胸を高鳴らせているわけではない。

 だけど、そんな事を二菜に言えるわけがない。

 だって、それを言ってしまったら……。


 これ以上この体勢でいるのは色々とまずいと二菜を離したが、それでもまだドキドキしていた。

 ここここいつは妹……っ!


「お、俺、今日は午後からバイトだから!」

「はい、知ってます! 晩御飯の準備して待ってますね!」

「楽しみにしてる……」

「くふふっ……はーい!」



 ああダメだ、可愛い……。

 今日がバイトで助かった。

 これ以上二菜と一緒にいると、緊張で死んでしまうかもしれない。

 というか正直、自分で自分が信じられないというか……昨日と今日で、まさかこんなにも自分が変わってしまうなんて、思いもしなかった。



 ……認めよう。

 俺は、二菜が、女の子として好きだ。

 好きに、なってしまった。


 だけど、まだそんなことこいつには言えない。

 俺は、二菜が本当に俺の事を好きなのか、ずっと疑ってきた。

 正直、今でもまだこんな可愛い子が俺を好きになるわけがないと、ちょっと疑っている。

 そうしているうちに次第に惹かれてしまい……気がついたらこれだ、笑えねぇ。


 ただ、そんな関係だからこそ俺は一度、二人の関係を大きく変えたかった。

 そして今までと違う、妹のような女の子、という距離感ならば、可愛いといったり、頭をなでるくらいならしたって全然問題ないはずだと思った。

 ……まぁ正直、今までのままで二菜に可愛いとか言うの、気恥ずかしかったというのもあったし……。


 そうこうしているうちに、二菜に本当に俺を好きになって欲しい、と……そう思って、いたのだが……。


「じゃあ、行って来るな」

「はい、いってらっしゃい……一雪お兄ちゃん♡」

「あー……はい、イッテキマス……」


 妹って言ったのは失敗だったかもしれない……。


「あー、ダメだ……これから、どんな顔してればいいんだよ……」


 * * *



 先輩がバイトに行くのを見送り、一旦私は自分の部屋へと帰りました。

 そして鍵をかけて、寝室の方へ行き……


「ひ、ひえええ……! あれはダメですヤバいです……!」


 昨日とはうってかわって甘々になってしまった先輩と一緒にいるのが恥ずかしすぎてヤバいです不味いですなんですかあれは!

 ちょっと長い前髪の奥から見える目が! なんかもう目が甘いんです!!

 今までにない表情に、胸の高鳴りが押さえられません!


 あの先輩を思い出すだけで、胸がきゅーっとして、思わず叫びそうになりました。

 いや、実際叫びたいです、そしてそんな時はベッドに飛び込み、枕に顔を埋めて……


「〜〜〜〜〜っっっっ!!」


 思わず、ベットで足をばたばたとしてしまいましたが、仕方ありません。

 もう何かしないと、我慢できないんです!


「ああ~……お義母様の言うとおりでした……!」


 これが藤代のおうちの男の人なんでしょうか。


「あー、ダメです……これから、どんな顔してればいいんでしょう……」


 とりあえずまずはお義母様に報告して……これからどうすればいいのか、アドバイスをもらわないと……!

 後は……。


「きょ、今日からは今まで以上に念入りに、髪のお手入れをしなければ……!」

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凄くモテる後輩が毎日愛を囁いてくるけど、怖いので俺は絶対に絆されない! yuki @yuki0923

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