『爆弾の下』
やましん(テンパー)
『爆弾の下』
『金星人』と『火星人』の共同管理下に置かれた地球では、子供たちはみな、集団教育されることになっていました。
なので、6歳になると、親元から離れ、各地区の巨大な『寄宿学校』に入ります。
16歳になると、成績や社会適性により、進学するか、専門学校に進学するか、就職するか、排除されるか、が自動選別されます。
ただし、天才と判断された人だけは、年齢にかかわらず、首都にある天才専用の総合学校に、専門ごとに分類されて進学します。
本当の親から離れた後は、金星人と火星人の里親の元に配属されます。
まあ、これは、教育的配慮というよりも、監視と言った方が正しいのでしょう。
里親は、ペアで10人までを担当するのです。
なので、けっこう、おおざっぱです。
まあ、火星人とか金星人とか言っても、元々は、地球人なのですが。
ぼくは、大人しく、真面目で、天才じゃないけど成績もよく、上位学校に進学する資格を得ました。
しかし、試験は受けます。
金星人の父が結果を尋ねました。
「合格しました。」
「何番だい?」
「次席でした。」
「そうか。まあまあか。」
ぼくは、順調に、かつては大学と呼ばれた、最上位学校を卒業しました。
それから、火星、金星、地球の間の、通信を担う会社に就職しました。
「きみには、期待している。」
火星人の取締役さんが、就職のときに言いました。
ぼくは、必死に頑張りました。
しかし、上を見ればキリがありません。
地球人の管理職は、最高位が部長職です。
しかし、この部長から課長までの間には、『天才崩れ』と言われる、天才だったけど、該当分野では成功できず、一般職に回ってきた人たちが、うようよいました。
どうにもならない人は、自動的に転落するのですが、さすがに、ものすごい人もいます。
ときに、ぼくたちの頭の上には、常に小さな爆弾が乗っかっています。
お世話はしなくても、勝手に自活をします。
彼らは、ただ、乗っかっているだけではなく、いちいち、面倒な指示や、脅迫をしてきます。
「この後、経理課のB太郎を排除せよ。」
とか、
『総務課のB子さんを、屋上から排除せよ。」
とか。
排除とは、消せ! ということです。
これは、邪魔者を消すという意味と、地球人の忠誠心を試すためでもあった、らしいのですが。
なので、ぼくも、いつ排除されるかわかりません。
もちろん、爆弾さん自体が、いつ爆発するか、判ったものではありません。
これには、抜け道があり、とにかく、金星人と火星人とを、やたらに、ほめたたえる言動を繰り返していれば、まずは、大丈夫です。
うっかり、悪口など言ったら、まあ、よくて『社会排除』、つまり強制収容所送りで、次は『排除』、最悪は、爆弾さんが、どかん、です。
爆弾さんが、『どかん』と行くと、身体が蒸発するので、何も残りません。
ぼくが存在した事も、なしになります。
地球人により『排除』された場合は、お葬式と共同のお墓、が許され、記録が残ります。
ぼくは、頑張りましたが、やがて精神が壊れて、うまく動作しなくなりました。
半年休んで治療して、見込みがなければ、お医者さまにより『排除』されるか、ロボットになるかを選択します。
どっちも、同じです。
ぼくは、いなくなるのですから。
ところで、金星人と火星人に恨みを持つのは、地球人だけではありません。
『太陽系外縁天体共同体』は、独立した存在ですが、太陽系中心部から排除された、異端の火星人と金星人の子孫さんたちです。
ぼくは、ふとしたことから、弘子さんという、彼らのスパイさんと接触しました。
彼女は、爆弾さんが気が付かない、ぼくの夢の中で、ぼくと接触してきました。
現状では、これ以外の接触方法がないのだそうです。
そうして、頭の上の爆弾さんの構造を教えてもらいました。
なんと、テレビのリモコンを少しだけ修理する感じで、爆弾さんを自爆させることが可能だというのです。
しかも、連鎖反応で、地球上の半分程度の爆弾さんを同時に破壊し、中央コンピューターを混乱させられる。
そしたら、宇宙船で乗り込み、革命を起こす!
と、いうのです。
ぼくは、消滅しますが、英雄になれる。
ほんとかしら・・・・・・
ただし、時間の勝負になります。
ぼくは、病室のリモコンをいじり始めました。
「きみ、なにしてるの?」
爆弾さんが聞いてきました。
「修理。」
「修理? 壊してるよ。うん・・・・それは、何かなあ? あらららら。本部照会。メンタル故障の地球人が、意味不明な行動している、これはなん・・・・・」
ぼくは、弘子さんに言われた通りに、リモコンの『1と5と8』を、同時に押しました。
このお話の続きがあれば、失敗です。
********** 📺 ********
おしまい
『爆弾の下』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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