よく眠れますように

@reminn

第1話

カンカンカンカンカンー。毎度のことのように踏切が危険を知らせる。どれだけ急いでいた会社員でも、息子と電車を見にきた母親も立ち止まって電車が通り過ぎるのを待つ。音と同時に降りてきた、黄色と黒の蜂が整列しているような棒は何人たりとも立ち止まらざるをえない。

音楽が流れる。「まもなく3番線に9時47分発空港駅行きがまいります。この電車の停車駅はー。」到着を知らせるアナウンスも流れる。駅構内のプラットホームでは自分が乗るべき電車をたくさんの人々がそわそわと待っている。ある人は友達と楽しく話しながら、またある人は音楽を聴きながら。これからに思いを馳せて来るべき電車を待つ。ドアが自分の前に来るまで決して動かず待っている。電車の頭が自分を通り過ぎてから一歩踏み出す。全て予定通りに進むはずだった。

しかし、この世に絶望した少年はー16歳である樋口京太少年はー少しも予定を気にすることなく、線路を見つめていた。電車の頭が通り過ぎるのを待つことなく、一歩踏み出そうとしていた。少年の顔からは何も思いを感じられない。

電車がついに駅に滑り込んでくる。

樋口少年は空中に足を踏み出し今にも別れを告げようとした。


「ピンポンピンポーン!おっめでとーうございまーす!あなたは10万人目の自殺志願者でーす!我々、死神としては大変喜ばしいことなので貴方に特別な力を与えたいと思いまーす!」

「…は?」

僕は状況が飲み込めなくてついそう言ってしまった。僕は、自殺をしようと絶対に飛び込んだはずだ。現に今は電車が目の前にあるから。でも、周りが止まって見える。というか、ものすごくスローモーションに見える。べつに見たくもない思い出なのに、これが走馬灯というやつなのか。しかも現実で見たことのないはずの自称死神が見えている。

「いいえ。これは走馬灯でもなんでもなく、ただの現実ですよ?」

ありえないことを、しかし信じざるを得ないことをさも当たり前のように死神は言った。

「私は自称ではなく本物なのです!だって、周りはスローモーションなのに私は普通に話しているでしょう?それに空中に立っていますからね。」

状況を把握できてきた僕は、じっくりと死神を観察してみた。真っ黒なローブをまとい、多分本物ではない骸骨のマスクをつけて、大きな鎌を持っている。



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