サイレントテレパシー

みなづきあまね

サイレントテレパシー

仲良くなりたい!ただそれだけ。彼女になりたいなんて、おこがましい。いや、なれたら本望だけど、まずは楽しく会話したい。そもそも、優しく接してくれたら、もはや昇天するかも。


私の正面延長線上に座る年上の人。接点が最近増えただけで、彼の周りの人達ほど、突っ込んだ話はしたことがない。だから、笑って世間話さえしたことない。


噂には、人見知り・女子慣れしてない、とか聞くけど、確かにそんな感じ。でも、実は私が仕事で凡ミスばかりするから(必ずしもミス人間ではない。何故か彼と組んだ仕事で、やらかしがち)、嫌気をさされているのでは?と不安ばかり。


9月に入り、残暑予報よりはよっぽどマシな日々が始まった。いつもより早く出勤した。


「おはようございますー」


私がデスクに鞄を置くなり、隣の同僚が声を掛けてきた。


「おはよう〜今ね、あっちで電話取ってもらってるけど、営業の件で問い合わせが来てるみたい。」


そう言われて彼に目をやると、眉間に皺を寄せながら、電話を握りしめていた。嫌な予感しかしない。


電話しながら彼が私に視線を投げた。私はじっと動かずいたが、電話が終わり、彼は即座に立ち上がると、心配そうに待つ私を再度見て、こちらに歩いてきた。


話を聞いたところ、こちらに何か不足があったわけではなく、向こうの不手際で来週中の約束が果たせないというものだった。


なにかと厄介な案件には変わりなく、彼は相手方に対して「ありえない」とか悪態をついていた。この後も上司数名にお伺いを立てなくてはいけないことは目に見えていたから。


「まあ、仕方ないですね。また電話するなら、私がするので番号貰いますよ。相談もしておきます。」


私がそう言うのと同時に、彼は付箋を私の手に貼り付けた。


何かまたミスでもしたら、とヒヤヒヤはしていたが、彼と近づくきっかけができたのは、素直に嬉しい。


午後、昼時は眠い。睡魔と戦いつつ、書類にペンを走らせていると、背後に気配を感じた。振り返ると彼がいた。時々、私の名前を呼ばず、気づかれるのを待つという、よくわからない時がある。


「あの件、どうなりました?」


立ち上がった私を上から見下ろしながら、彼は聞いてきた。それから、真後ろにある物を置けるスペースに腕をつき、浅く腰掛けた。普段直立でばかり話しているのに、珍しい。


「まだ連絡がつかないんですけど、取引なかったことになりそうです。今、部長から向こうの会社に連絡を入れてもらっているので。」


私は真正面から話す勇気がなくて、彼の真似をし、棚に腰掛けた。横に並んでいるだけで、距離がかなり近く感じる。午後の柔らかな光が窓からさし、私達の背中に当たっている。


「なかなか困りますよね。まあ、こっちに非はないし、いいんですけど。」


そう呟きながら私の目を見た彼の目、思ったよりも色素が薄く、光に当たって茶色く輝いていた。綺麗。なかなかこの距離で話す機会もないし、目を見てくれることも少ないから気づかなかった。


お互いの腕が触れそうな距離、そして和やかに腰掛けて話している姿が、他人の目にどう映っているか気になる。


彼は私にお礼を言い、ふっと笑って立ち去った。なんだか少し近づけた気がする。窓の外を眺め、嬉しくて思わず一人頬を緩めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サイレントテレパシー みなづきあまね @soranomame

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ