夜八時半に私はシチューを作った

隅田 天美

料理の素人がエッセー漫画に出てきた料理を再現してみた その2

 最近、咳が止まらない時がある。

 鼻をかむ回数も増えたような気がする。

 熱はない。

 体がだるいというわけでもない。

 ただ、咳と鼻の調子がおかしい。

 特に咳は一度出ると連続で出て周りを心配させる。

 薬局で漢方を買い求めて幾分咳は楽になったが、鼻をかむ回数は増えた。


 非常に困った。

 風邪ではない(はず)だが、師匠に会うため東京に行く予定がある。

 なのに、咳などは止まらない。

 金曜日の午後六時半。

 仕事を終えて玄関に仕事用鞄を置いた瞬間、第一回「深夜二時に私は根深汁を作った」で登場した脳内神様がお告げを出した。

『天美、今こそ【おとうさんのシチュー】を作るのです』

 私は財布を握ると急いで車に乗り込み、スーパーへ買い出しに行った。


【おとうさんのシチュー】について書こう。

『おい、ピータン‼』などの作品を書いている漫画家の伊藤理沙が同じ漫画家の吉田戦車と結婚し、娘の「あーこ」ちゃんを出産。

「あーこ」ちゃんの成長と共に家族の様々な出来事をエッセー漫画にしたのが『おかあさんの扉』である。

 その七巻。

 小学二年生になった「あーこ」ちゃんが、ある日を境に小学校に行くのを渋りだした。

 驚愕し戸惑う親。

 それでも学校に送り出した。

 が、ある日。

 遠足から帰って来た「あーこ」ちゃんは顔を真っ赤にさせていた。

「あーこ」ちゃんは風邪をひいていたのだ。

 そして、それは母親である「おかあさん」伊藤理沙にも感染。

 それを見た「おとうさん」吉田戦車が、家族のために作ったのがハンバーグと具だくさんのシチューであった。

 ハンバーグはともかく、シチューは何となく体によさそうだ。


 まずは材料を書き出してみたよう。

・赤いウィンナー(これは遠足で作ったたこさんウィンナーの残り。大量に入れたそうで私は二袋入れた)

・角切りベーコン(出汁用)

・鶏肉(むね肉)

・たまねぎ(大玉六個)

・じゃがいも(大玉五個)

・しめじ

・エリンギ

 これらを切り、我が家で一番大きい鍋で炒め水を入れて小一時間煮込む。

 その間にネットなどを見て次回作の小説の案を練ったりテレビ(五分番組)を見てナレーションでキャーキャー騒ぐ。

 さて、一時間半ほど過ぎただろうか?

 鍋の蓋を取る。

 そこには赤いウィンナーが弾け、玉ねぎはほとんど溶けて煮込まれていた。

 ハ○スのシチューの素(顆粒 クリーム味)を入れ、溶かす。

 この時、夜十一時半。

 さすがにこの時間にシチューを食べる勇気はない。

 それでも、小さいお椀に一杯だけ食べた。

 正直、美味い。

 ベーコンやウィンナー、野菜の出汁が効いてパンというよりご飯に合うシチューだと思った。(ドリアともいう)

 確かにこれなら(吉田氏がどんなシチューの素を使ったか、材料は何なのかなどは分からないが)三十八度も出た「あーこ」ちゃんが少し食べることが出来たのも理解できる。

 というわけで、冷やす。


 今日が明日になった深夜零時半。

 だいぶ冷めて、あとは「冷蔵庫の仕事」として一番広い空っぽの野菜室に鍋を入れようとしたが入らない。

 それどころか、鍋を斜めにしたため中身が出た。

 慌てて鍋を戻して野菜室を拭いた。

 そのあとも中身が出ないように試行錯誤するが、我が家の一番大きい鍋は入らない。

 終いには、堪忍袋の緒が切れて深夜だというのに冷蔵庫にキレた。


 実は、「おかあさんの扉」で【おとうさんのシチュー】が出たのも夏の季節であった。

 具だくさんというのは、それだけ質量があるということである。

 今回、この「作った」シリーズにおいてかなりの量になった。

 正直、三世代家族が食べてもまだ余るぐらいだ。

「おとうさん」こと吉田戦車は、これをどう保存したのだろう?

 対して独身の私一人が大鍋のシチューを食べるというのは非常に苦行である。

 シチュー好きの私でも辛いものは辛い。

 というか、体重が少しずつでも減っている私には、ある意味恐怖すらある。

(なお、私の外見は『おい、ピータン‼』の主人公、大森さんによく似ています。私、女ですけどね)


 悩みつつ私は水曜日と週末に通っているジムへ行った。

(水曜日はジム内で空手教室があるため通っている)

 顔なじみのトレーナーに会員カードを渡し鍵をもらう。

「なにか、浮かない顔ですね」

 トレーナーが言う。

「わかります?」

「ええ」

 私は訳を話した。

 すると、トレーナーは実にあっさりと答えた。

「保存パックに入れて冷凍すればいいのでは?」

「……あ、そうですね」

 私は言われるまで保存パックのことなぞ考えていなかったのだ。

 トレーナーは言った。

「では、早く着替えてシチューを食べた分、ジムこっちでカロリー消費をしてください」


 マシンジム(器械を使った運動)とウォーキングを終えて私は咳と鼻の薬を買った。

 保冷パックはあっさり家にあった。

 しかも、大きい。

 それに鍋のシチューを半分以上入れた。

『入るかなぁ?』

 冷凍庫には先約(冷凍した母の料理など)がある。

 でも、あっさり入った。

 これで、シチューを腐らせる心配はなくなった。

 昨夜のブチ切れはいったい何だったのだろう……


 風邪が治った「あーこ」ちゃんたちの家族は元気に成長しているようだ。

 さて、私の風邪(もどき)はいつ治るのか?


 最後に。

 初めてですけど、次回(更新)予告します‼

 ほぼ、更新を滞っていた『暇人の集い 特別編』を大幅に更新します。

(ただし、仕事もあるので頻繁ではないです)

 私の師匠も本格登場します‼

 そちらも是非、お楽しみに。

(そして、他の作品同様に感想などを頂けると幸いです)

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夜八時半に私はシチューを作った 隅田 天美 @sumida-amami

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