第2話

 ある土曜日の昼休み。

 何時ものようにメッセージをばら撒いて返信を待ちながら昼食を取る。


 ここ最近は、毎日高校へ通学していた頃、同じ電車に途中駅から乗車していた他校の希(ノゾミ)という色白の美人とひょんなことをキッカケに連絡先を交換したことから、メッセージのやり取りを開始してもいた。

 顔見知りであったり共通の知人が別にいる間柄だと交友関係に発展させるまでのプロセスに邪魔くささを伴うものの、たまたま夜の出先でバッタリと会い、間に何も介すこと無く連絡先を交換するといった具合いにコトが進んだ。

 共通の知人の話題を差し込めたりで話も弾み、いつしか2人で遊ぼうと意気投合するするまでもごくごく自然な流れであった。


 思い掛けない展開ということもあってか、希とのメッセージが他よりもテンポよく進む。

「今日夜予定あるの?」

「多分無いかな。入るか入らないか不確定な予定があるかもって感じ(?)」

「それ後日に回せるのであれば今晩軽く車で出ない?」

「出るって何処へ?」

「そこら辺の近場で。週末は終日出勤なので何もせずに終わるのも何だかなってところで、何かはするようにしててさ」

「確かに週末少しでも息抜き出来ると翌週違うよね(笑)」

「そう。それにノンちゃんとウチ2駅くらいしか離れてないから、軽いタッチで付き合ってくれたらと思って!明日予定ある?(笑)」

「予定は無いけど親がうるさいから遅くならないなら行こっかな」

「大丈夫!23時頃には送るよ。オレも翌日朝からバイトだし(笑)」

「じゃぁ夜連絡待っていれば良い?」

「18時には上がるので一回帰って着替えたい。で、食事は家で取るようにしてるから済ませといて!20時目標かな」

「分かった、ゆっくり待ってるー」

「適当に飲み物かなんか買って行くー」


 そうやり取りを交わしながらパートの主婦と休憩を交代して午後からの業務に勤しんだ。

 週末なのを良いことに自ら返却業務をかって出て希からのメッセージをチェックしながらそれにも応じる。

 せっかくの近場での約束のため敢えて何処かへ足を運ぶ必要はない。行く当てを見繕いながら、返却棚へ次から次へとレンタルから返って来る商品を手に取り、それをまた元の棚へ戻すという作業をひたすら繰り返した。

 希の家の近くだと、近年の市町村合併によりリノベーションされたばかりの市役所の駐車場がマッタリと過ごすには調度良い場所に思えた。

 コンビニも近く、街灯の灯りも適度に車内を照らすため車を停めて時間を過ごす場合にはしばしば活用するスポットであった。


 終業時間を迎えそそくさと車に乗り込む。

 パートの主婦と先輩ギャルが「今日は何処で何をするんだ(笑)」と揶揄い半分に見送ってくれた。予定が無い日であれば駐車場に腰を下ろしては少し駄弁って帰るというのもお決まりだったが、この日は希のことで頭がいっぱいでそれどころではない。


 18時半には自宅に帰り着き、夕食を済ませると19時を過ぎていた。ダラダラとしながら風呂で入念に汗を流し、改めて身仕度を完了させたところで調度20時を回ろうというところ。

「今から出ようかというところなんだけど、適当に飲み物か何か買って行くね」

「分かったー。お任せするー(笑)」

「駅辺りまで行ったらまた連絡するね」

「待ってるー」


 近所のスーパーに立ち寄り適当な菓子類とドリンクを買い込んだ。何方が何を飲み食いしても良いように新商品の物珍しそうなモノを適当にカゴに突っ込んで精算を済ませた。そうしたところスーパーでの支払いは3000円にも満たないものだから、夜にこういった予定を入れる時は事前の買い出しもお決まりのパターンとなっていた。

 車に乗り込む間際に背後から声を掛けられたと思いきや、馴染みの後輩が数人連れ合ってそこで持て余しているようだった。

「おっと城西くん1人?また1人で良いコトしに行くんでしょー?」

「いや帰って1人で食おうと思って(笑)」

「絶対嘘じゃん!宅飲みでもしそうなくらい買い込んでるし!(笑)」

「じゃぁ明日の分もってことで(笑)」

「オレらもたまには連れてってくださいよ〜」

「もう夜遅いんだから帰れって。補導されるぞ(笑)」

「城西くんもカーセックスばっかしてたらその内パクられますよ(笑)」

「だからオレは真っ直ぐ家に帰るんだって(笑)」

「じゃぁ今からオレらもお邪魔していっすか?」

「ダメ!絶対来るな(笑)」

「ほら!やっぱ1人で良いことしに行くんじゃん!」

 適当な言い訳を並べながら後輩達を振り切り車を出す。スーパーで買い出しをする場面を誰かしらに目撃されるというのもいつものことだ。


 希の自宅の最寄り駅から連絡を入れ、そこから更に落ち合う場所までの指定されたルートを徐行する。

 程なくすると、細身のデニムにカラダのラインがハッキリ浮き出るようなTシャツといった出で立ちで、トボトボとこちらへ向かって来る希の姿を視界が捉えた。

「ごめんね、近くまで来てもらっちゃって」

「良いよ、アクセル踏むだけだし暗いし」

「こんなに買って来ちゃったの?(笑)」

「車何処かに停めて駄弁ってようと思って(笑)」

「なるほど!」

「市役所の駐車場綺麗になってるし明るいからその辺に移動して良い?」

「何処へなりとも(笑)」


 顔が整い過ぎていて会話をするまではキツめに見える希なのだが、初めて2人で会うにも拘らず余所余所しさを感じさせない、案外人懐っこい性格なのだとみて取れたので安堵した。

 2人きりの密室で人見知りなどを貫かれると堪らないだろう、相手のキャラを見定め切らない内にコトが運びはしたはもののそんな懸念を一瞬で払拭出来た僕は悠々とアクセルを踏み込み、市役所の駐車場へと車を停車させた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る