第4話

 <3年後>


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 4月の末に就職先が決まり、このゴールデンウイークは何をして過ごそうかと持て余しそうだ。

 特に卒業旅行で海外にでも行こうなどという予定も金も無いし、何か楽しみのための小遣い稼ぎに臨時のバイトに有り付きたくとも、田舎街には軽いタッチで出入り出来るような職も限られてくるからその手段を探すのにも骨が折れる。


 来春から皆を追う形で僕も上京を決めたというのに、ここ最近になって立て続けに馴染みのツレが仕事を辞めたり、卒業しても都市部での職に有り付けずに結局地元に帰って来てもいて、彼らもダラダラとした日々を過ごしているようだ。

 そんなことなら高校卒業以来揃わなくなっていた馴染みのメンツで久々に街へ繰り出そうと、昼間から皆で予定を合わせてはいた。我ながら楽しみに進歩や発展がない。


 僕らが10代の頃は大きな車を所有する者の有志頼りでは参加可能な人数にも限りがあったが、後輩連中も含めて出せる車の台数が増えてくるといつしかそんなことも気にならなくなっていた。

 車さえ出せば仲間に加われる、オトコだけでいつも10人以上は集まる煩わしさはあったが、慕われる分には悪い気はしない。


 この日もメンツさえが揃えば後はどうにでもなるだろうと特に何も決めず、お決まりのアミューズメントスポットへと出向いた。細かいことは後から考えようというのも毎度のことだ。そもそも顔触れ的に入念な予定調和を求めるには少し無理がある。


 連休だからか帰省中らしき同世代の垢抜けた女性が普段よりも多く感じるが、やはり想定通り皆2、3人で1組といったグループでいる。

 まずは広い駐車場内をローラー作戦の如くグルリと周回しながら、車から出ず車内で会話を楽しんでいる女性に片っ端から声を掛けていく。

 車外からのアプローチは「ちょっと窓開けてもらっていい?」と窓をコンコンと鳴らしながら旧式のレバーをぐるぐると回す仕草でベタにボケつつ、車を出されでもしなければシカトされることも無かった。


 会話を開始したところで「出来るだけ多くの女性に声を掛けよう」くらいのノリでいる僕達は、テンポ良く和ませては「また戻ってくるから何して遊ぶか考えといて!」とその場を一旦は離れ、見える位置であろうと構わず別の車の女性にまた同様に声を掛けるという行為をひたすら繰り返す。手前で声を掛けた女性達はその一部始終を車内から見物している。そのため戻ったところで、「あれ、ダメだった?(笑)」と逆に突っ込んでもくれ、更に会話が弾む。

 その日に何も至らなくとも、連絡先を交換しては後日ドライブへ、という発展も日常的なものだ。

 1組、1組に想い入れすることも無かったが、相手側にとっても「軽いタッチで楽しめそう」とラフな印象もプラスに働いたのかも知れない。


 2、3人組となると1人はユニークなキャラが混ざってたりするのだが、そういった許容が必要なのはマナーのようなものだ。しばしば新参者とナンパをしていると、街中見渡して自分の好みを選りすぐるので「それなら1人でやれ」といつも思った。

 好みを言い出すとヒトの趣向は割れるのだ。


 そう次から次へと手際良く声を掛けては相手の目処をつけていくと、結局コチラに10数人いようとも遊び相手は見つかった。

 いつも中心であれこれ立ち回るジローと、他の顔面の造りの良い仲間達とでコチラの車台数分の女性のグループを当てがい、あとはそれぞれで楽しもうとことは運んだ。


 そんな中、都内の美容サロンに就職しながらも先輩スタイリストに手を出してしまい地元へ逃げ帰って来たばかりのリュウと僕の2人は、ジローが昼間に連絡先を交換したという女性を「1人待たせているので、2人で行って来てくれないか」と促され、待ち合わせとなる閉店間際の書店の駐車場へと向かっていた。


 リュウの下手くそなハンドル捌きにイライラしながら助手席に座って窓の外を眺めている。会話に夢中になって体ごとこちらを向いて喋るのはやめて欲しい。

「いいから前を見て運転しろ」と示唆しながら、僕も対向車や通りを歩く女性がいないかを車内から外を注意深く観察している。いつからこんな癖が根付いたのだろう。合コン中に女性が席を外した隙を見計らって隣のテーブルの女性グループに声を掛けるなんてコトも厭わなかった。


 栄えたエリアや盛り場でのナンパであれば意識せずとも何てことなく女性と出会えるのだが、地方の田舎街では一定の時間帯を越すと夜はヒトすら出歩かなくなる。

 そんな中でナンパばかりして遊んでいる僕等にしてみれば、一定の割合いで可愛い女性とも出会えるという実態は寧ろ余り知られない方が良いのかも知れない。

 今日も他の車に当てがった中に可愛い女性が何人もいた。余程であれば早めに切り上げてそちらへ再合流すれば良い。声を掛けたりの実働そのものを担っている僕等の手柄には変わりないので誰も文句は言わないだろう。

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