第5話
指定された書店の駐車場に到着すると、自販機の脇のベンチに1人の女性が携帯電話を片手に腰を下ろしているのが見て取れた。
車を停車させるとコチラを伺う様子でゆっくりと近付いて来たので窓から顔を出して合図を送り、後部座席へと促した。
「はじめまして〜。状況余り分かっていないんだけど何て聞いてる?(笑)」
「『友達に迎えに行ってもらうから後で合流しよう』みたいな?私も状況よく分かってないです…(笑)」
「今日知り合ったんだよね?」
「はい、バイト休憩してたら『電話番号教えて〜』って(笑)」
「ナンパだ…(笑)」
「えぇ…?ナンパじゃないですよ。『教えて』って言われたから教えただけです」
「シカトしてやれば良かったのに。好みだったとか?あ、たまたま今彼氏がいないとかでしょ?(笑)」
「まぁそれもあります。『友達連れ合って皆で遊ぼう』って感じだったので(笑)」
「なるほど、それで本人来てないとかなかなかトリッキーだな(笑)」
「確かに…(笑)」
「とりあえず3人で遊んでいようか!(笑)」
「お任せします(笑)」
ジローに引き合わされた麻由を後部座席に乗せて車を出すようリュウを促す。
どうにかこの場を和ませようとしている僕の横でリュウはクールを気取ってか多くを喋らない姿勢を貫いている。
今日はそういう設定なのかと煩わしく思いながら構わずリュウにも話題を振りながら麻由と会話を続けた。
麻由はジローが声を掛けるにしては少し落ち着き気味ではあったが、ヘアスタイルやメイクにファッションと、何れも自分に似合うものを理解しているといった出で立ちで女性らしい色気を漂わせる2歳下の看護師だった。
途中、コンビニで適当にドリンク類の調達を済ませて少し開けた高台にある市の複合スポーツ施設の駐車場に車を停めた。
リュウの設定を無視しながら雑に話を振っていると、本人も面倒くさくなったのか、案外サラリと当初の姿勢を崩したのでまるでこの場で初めて会った様には感じで3人がバカ話を繰り広げていった。
女性が1人というこの場においては少し気遣いが必要だった。良い感じに男女の関係に発展させようとした場合、やはり1度2人きりの状況を作るのが得策ではあった。
とはいえ誰かが動き出さなければと、天然なのかバカで自己中なのか、モノ解りの余り宜しくないリュウにこの場を一旦譲ることにした。「どこかで絶対代われよ」と念押しし、麻由には「電話して来る」と告げて僕は車外へと外した。
懸念があるとすれば、リュウのいつもの傾向としてどの様に入れ替わろうかと機転を利かせることは期待出来ず、「この場は自分に譲ってくれた」と勘違いして2人きりの時間を堪能しがちな点だ。
その間が非常に長いと身内から苦評を浴びながらも全く改善には至らない。更に女性に色を使いがちで、中身が空っぽのくせに惚れさせた上でコトに及ぶため、そう仕上がったところでどの様に混ざって行くべきかは読めない部分でもあった。
これだけの突っ込みどころを要しながらも、オトコ2人でダラダラ過ごす分には相性が良いのが不思議だったが、せっかくなので僕も楽しんでやろうと、一旦離れた車に近付いて様子を伺うことにした。
街灯との微妙な位置関係からか意外に車内見えやすく、遠目から見ても運転席にいたはずのリュウが後部座席に移動している様子は把握出来た。
車から近い街灯と車を挟むように近付くと、リュウが麻由にキスをしたりアタマを撫でたり密着しているようだったが、例に漏れずイチャイチャする時間を堪能している。
コレも想定の範囲内だと更に車に近付いたところで車内のリュウと目が合った。
露骨に驚いた表情を返したので真剣に腹が立ったが、そこは麻由には気付かれないように後頭部に片手を被せながら濃厚なキスを重ねて誤魔化したので「たまにはやるじゃないか」と胸を撫で下ろしながらも、「早く済ませろ」と急かせる様にジェスチャーを送る。
見立てとしては、リュウがフィニッシュを決めてから服を着直す間のタイミングで車に戻り、「抜け駆けとはズルいのではないか(寂)」と拗ねて、服を着せない作戦はどうだろう。
麻由の背後の位置になる助手席の前方部から後部座席を覗く格好にポジションを取るとリュウが恥ずかし気に「分かったからまだ向こうへ行ってろ」といった具合いに顎で突いて来た。
変顔を返してその場を動く気がない意思を示したところ、調度カラダを起こして顔を上げたトップレス姿の麻由が僕の影の位置に違和感を感じたのかこちらを振り返りバッチリと目が合った。
次の瞬間。車外にまで響く大きな悲鳴を上げ、状況が理解出来ないまま両手で顔を隠しながら嗚咽を漏らす様子の麻由に、フォローせねばと咄嗟にリュウにロックを解除させ車内へ乗り込んだ。
「隠すのおっぱいじゃなく顔なんだ…」と妙に感心しながら、咄嗟の判断で車内に乗り込んでみたはものの、半裸の2人に何て声を掛けよう。
麻由はトップレスのまま顔を両手で覆いながら嗚咽を漏らしている。隠しているのは依然カタチの綺麗な乳房ではなく顔の方だ。
必死な相手を前に哀れみを覚えたわけでは無いが何処か申し訳なくも思った。
「そんなに泣かないでよ…」
「いつから居たんですか…?」
「この状況で中々入って来れないじゃん?だから待ってたんだよ」
「やっぱ見てたんじゃないですか!酷い!」
麻由が更に声を上げて泣く。
「自分達だけ抜け駆けしちゃってるの絶対忘れてるでしょ…(笑)」
「最初からそういいつもりだったんですか?」
嗚咽を漏らしながら麻由が返すので少し落ち着かせようと、今度はリュウを一旦車外へ出して僕が麻由を宥めることにした。
太々しくデニムを履き直すリュウを「どうせ何も役に立たないのだから退いてろ」と構わず追い出した。
「さっきからおっぱい見えてる」と乳首を指で突つくと、その腕を叩き返して露骨に拒絶を示されたので「暗いしそんなに見えてないから」と、そこまでカラダ目当てではないのだと示す。
落ち着きを取り戻した麻由が脱いだ上着に手を掛けようとしたのでその手を制止する。「せっかく脱いだしまだ着なくて良いじゃん。オレも脱ごっかな」と支離滅裂なコメントを投げつけていた。
「はぁ…。もう良いですよ。私も悪かったです」
「何が良いの?」と返しながら僕も上着を脱いだ。
「本当に脱ぐんですか…(笑)」
「自分で言ったコトだから」
「ここでのコト絶対秘密ですよ?」
「大丈夫。でも内緒ならもうやっちゃわない?何か吹っ切れた感じするし(笑)」
「それ私がここで2人としちゃうってコトですか?」
「そうだ」と答えそうになりながらも、リュウが加わるとまたいちいち長くなるので悪びれもなく「オレだけで良い」と返した。
「絶対あのヒト外から観るじゃないですか…」
「別の場所行けば良くない?」
「あのヒトどうするんですか?」
「また拾いに来れば良いでしょ。さっきはオレが除け者だったわけだし(笑)」
「であれば…」
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