「共感」をはるかに凌ぐ高度なエンターテインメント!

文章のリズム感といい、ストーリーのエンタメ性といい、メッセージ性といい……すべてがハイレベル! 作者様のセンスのなせるワザでもあるのでしょうし、いい意味で高度に計算されてもいるように感じました。一瞬「あれっ?」と引っかかるような構成にも重要な意味が隠されており、巧みに回収されて見事な読後感を導きます。

作中で効果的に使われている「不真面目」という言葉。これが茶目っ気を帯びた自嘲とささやかな誇りの境目を絶妙に突き、物語全体を引き締めています。彼らのように惜しみなく愛情を注げる(自分を「離してくれない」)嗜好対象を持たない者にさえ、温かい夢、終わりのない青春のようなものを垣間見せてくれる。これは小説としての大いなる価値と言えるでしょう。

主人公の心情描写も秀逸。彼女が口にした思いがけないワードに対するリアクションや、なぜかその姿を父親の思い出と重ねてしまうシーンなど、これほど複雑な感情を名付けずして的確に伝えてくる技量に感嘆します。ふと訪れた微かな寂寥感を経て、最後に行き着く場所がまた素晴らしい。

ここで何を語るより、作品自体の雄弁さに再び酔いしれたくなってしまいます。皆さんもこの名作をぜひ隅々までお楽しみください!