夜景は今日もきらめいて

四神一鏡

夜景は今日もきらめいて

初めて東京に来たのは一体いつのことだったか。小学生の時に一度だけ旅行で来たのは覚えている。その時に初めて東京タワーに行き、その大きさに圧倒され、そしてその展望台から見える夜景にもっと圧倒されたものだ。あれから30年近くたった今でも覚えているくらいだから相当に感動したのだろう。夜にも関わらず、街中がキラキラと輝き、まるでまだ昼なんじゃないかと思わせるほどに明るかった。ろくに街頭もなかった地元の田舎と比べたら、まるで別世界に来たかのようだった。僕もいつかはこの街に住み、この街を作り上げる人の中の一員になりたいと夢見たものだ。あの頃の僕は、今にして思えば人生を謳歌していたのだろう。


僕は大学を出て、東京に旅立ち、そこで就職を果たした。あれから30年たち、大人になった僕はかつて憧れた街、東京で仕事をしている。夢の都会生活も最初のうちは楽しかった。見るもの全てが新鮮で、面白くて。

でもそんなものも30年もたてばすっかり日常となる。朝起きて、出社して、夜遅くに帰る。そんな決まり切った日常を、さながら機械仕掛けの人形のように繰り返すだけだ。新鮮さなんて微塵もなく、面白さなんてかけらもなく、ただ日常へのマンネリを感じながらも、それでもいつもと同じように生きる毎日。もはやそれを嫌と思う感情さえも忘れたような気がする。


そして今日も今日とて大量の残業をこなしながら、ふと息抜きがてらに窓の外を覗いてみた。そこには小さな東京タワーが見えた。会社の窓から東京タワーが見えることに今まで気づいていなかった。かつてはその大きさに驚かされたものだが、今となっては随分とちっぽけなものに見えた。逆にあの東京タワーの展望台からみたら、僕がちっぽけな存在に見えるのだろうか。いや、ちっぽけな存在とさえ認識されないんだろうな。そう思うとなんだが虚しさが胸によぎる。

そういえば、僕はかつて東京の夜景を作り上げる一員になりたいと夢見たことがあったが、もしかするとその夢は今かなっているのかもしれない。僕はふとそう思った。あの日見た綺麗な夜景も実はこうした残業に苦しむ人たちの光だったのじゃないだろうか。


そうでないことを祈るが、もしそうだったとしたら、それはあまりにも・・・


「なぁ・・・小学生の頃の僕よ、君の夢は叶ったぞ。」


東京の夜は今日も明るい。

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