第5話
高梨は友人らとの旅行中、亡くなったとの事だった。
日中は元気だったのに夜遅くから眩暈や吐き気を訴え、立って居られないほどだったという。焦った友人たちが救急車を呼び搬送されたものの、そのまま帰らぬ人となったそうだ。死因は熱中症だったと伝え聞いている。
あの夜に高梨から来ていたメッセージや通話の記録はスマートフォンには残っていなかった。高梨の私物には残ってもしれないが、調べようがないし調べる気にもならない。ただ、私はあの電話を夢や幻覚であったとは思わない。耳にこびりつくような高梨の声は頭から離れず、どうして、どうしてと今も反響している。
あの老婆の話をしてはいけなかったのか、それとも作り話を混ぜ込んではいけなかったのか。いずれにせよ、私がトリガーとなって高梨を死に追いやったのだと思えてならない。どうして私が助かって、彼が死んだのかは全くわからないのだけれど。
そう。私は助かった、のだと思う。例の交差点に相変わらず老婆の姿は見えないけれど、高梨が死んだあの日以来、人々は以前と同じように交差点の真ん中を避けて歩くようになった。これはきっと元通り、起こっていた何かが終わったと告げているのだ、と私は思う。
最近、塾生の間で噂が立っている。
県庁前の大通り、スクランブル交差点の真ん中に男の子の霊が出る。彼は何かを探すように辺りを見渡してばかりいる。普通の人には見えないが見える人には見えるらしい…と。私はそれ以上聞こうとは思わない。いかにも中学生の間で流行りそうな、下らない幽霊話だと笑い飛ばす。だって私にはもう何も見えないのだから。
交差点の老婆 御調 @triarbor
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