いせかいでいず!

寺条 好

その一、異世界に飛ばされた⁈

「異世界転生。最近では使い古されてきたがアレって実はとってもいい設定だよな。一瞬でドラゴンなクエストやファイナルなファンタジーの世界設定も一瞬にして出来るし、チート能力持って俺TUEEEEEEしても、ピンチで仲間が駆けつけてくれたり偶然冒険のキーアイテム拾っていたりするご都合主義も全ては『転生してきた主人公だから』で済む話だ。

さてと、物語にリアリティーを求めるようで笑いが俺のようなド陰キャコミュ症どもが異世界に召喚されたらどうなると思う?

シンキングタイムに一分やろう。考えてみな。







……どうだ、答えは出たか?さてと、こたえあわせといくか。正解はーーーーー否だっ!

そう、否なのだ。まず大前提として、異世界転生恒例のギルド作りの時点で詰むだろこれ。だいたい体育のペアすら自力で作れない時点であとはお察しってもんだろ。え?『体育のペアくらいは普通に生きてりゃ作れるだろ』だって?HAHAHAぶっ殺すぞてめぇ。

ってなわけで、異世界転生自体は見てるぶんには魅力的には映るけど、実際にはチート能力でも持たない限りただの人間なんかが主人公になろうなんておこがましいってレベルなんすよ。『ところで、なんで今こんな下らない話をしているか』って?そりゃあ、お前……」

目の前に広がる、いかにもというほどに異世界感を放つ西洋風の巨大な城を目にし、また、青空へと視線を戻す。はぁ、空が綺麗だぁ。

「現実逃避に決まってんだろ……」

ポツリと呟いたその言葉は虚空へと溶けていった……


「それは、ある雨の降る夜だった。いや、あめ降ってたっけ?まぁ、いい。とにかく午後九時ごろのことだった。

私は暗室の中の一点の光のみを目をギラギラとさせながら熱心に見つめ、手をカチカチと必死に動かしていた。その後ろ姿はさながら修行僧を彷彿とさせた。だが、安寧は長く続かないものであった、『バンッ』という効果音とともに扉を開く者が現れたのだ。やれやれ、とうとう私にも雷が落ちる日がきたのか。親の性格からしてなんとなくこんな日が来ると覚悟はしていたーーーーー」

「ねぇ、ふざけないでちゃんと状況説明してくれない?つまらないんだけどその話し方」

目の前に佇む彼女はそう静かに怒っていた。

「えっ、あっ、すみません。調子乗りました」

「で?」

「えっと、部屋引きこもってゲームしてたら親に家追い出されて、それからーーー」

「路地裏で酔って吐いてる私を見かけたと?」

「まぁ、簡潔に言えばそうですね」

彼女は「はぁ」と小さくため息をついて……

「そして、心配で声をかけようとしたところ転移に巻き込まれたと」

「まぁ、そうですね」

「マジかぁ、すまん。よりにもよって転移させちゃうなんて……」

マジかぁ〜、すまんじゃねぇよ。

「あの〜」

「何?」

答えはなんとなくは分かってはいながらもおそるおそる、彼女に問いかける。

「今すぐもとの場所に戻してくれませんかね?見たいアニメとかあるんすけど」

「無理だね」

「じ、じゃあどうすればもとの場所にもどれますか?」

「いったん死んで、数千ある世界の一つを引き当ててその世界でのヒト科ヒト種になればいいけど。どうする?」

「無理ゲーじゃんそれ」

マジか、今すぐにとはいかなくとも異世界転移だ、魔王やらなんやらを倒せばオッケーな感じかと思ってたのに……

「まぁ、しゃあないかじゃあどうする?ここで一生を過ごすそれとも死ぬ?」

「分かってて聞かないでくださいよ……」

「ほら、どうせ家追い出されて位場所なんてないんでしょ。それじゃ、勇者…………名前なんだっけ?」

「トモカズっす」

「勇者トモカズよ、魔王を倒す冒険の旅へと出かけるのだ。…………魔王三年くらい前にイケメン君に倒されてるけど」

「は?」

「そ、そんじゃ〜ね〜」

「お、おいちょっと待てって」

「ラルラリラ〜、リルラリラ〜、んほほいんほほい何も聞こえぬ〜。あ、朝ドラの予約忘れてた。あっぶね〜」

そう言うと彼女はゆっくりと空高くへと消え去った。

言いたいことはたくさんありすぎて困るのだが、これだけは言わせて欲しい。

「お前一人だけ帰るのかよ……」








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