第7話 火力発電所

 ハルトとエリナはパーティー会場を後にして火力発電所へと向かうことになった。

 火力発電所に行くと一口に言っても、ハルトは電車で1時間かかることを思い出した。そんなに悠長なことしていられない気がした。

 ハルトはエリナに訊いた。


「発電所までどうやって行く?」


 エリナは呆れて携帯を取り出した。


「ちょっと、車出して」


 それだけを言うとエリナは電話を切った。

 エリナは言った。


「この場合、車で行った方がいいでしょ」


 エリナ自身も責任も感じているのだろう。

 火力発電所へはエリナの家の車で送ってもらうことになった。ハルトは忘れていた、エリナの家が金持ちだったということを。

 車で行くことが出来ればかなりの時間短縮になるだろう。

 帝国ホテルの前には既に車が回されていた。白髪の男性がドアを開けて待っていた。

 ハルトは車のことに詳しくないので車種は分からないが、右ハンドルだったので日本車だろうことは分かった。

 後部座席に座ると広く柔らかな座席に腰を落ち着けた。

 エリナは言った。


「うちの執事の桂川よ」


 車を運転する白髪頭の年配の男性を紹介してくれた。

 火力発電所までは数十分かかるので、何とか場を繋ごうと思いハルトは訊いた。


「この車ってなんていう車なんですか」


 桂川は礼儀正しくハルトに答えた。


「センチュリーです」

「男って機械とか好きよね」


 エリナは呆れていた。


「エリナお嬢様のこと、宜しくお願いします」


 桂川の言葉を受けて、ハルトは会釈しながら発電所に歩き出した。

 火力発電所に到着する。

 施設は管理棟と書かれたビルが正面に建っていた。

 ただ目標とする発電施設は管理棟の先にあった。管理棟を回るように歩いた。窓ガラスから内部を見るとおかしなことに事務机が並べられているものの人が一人もいないことに気付いた。

 エリナはハルトに訊いてきた。


「中に人がいないわよ」

「本当だな」

「これもアルデールの仕業かな」

「かも知れない。とにかく先を急ごう」


 一縷の不安を感じながらも、二人は歩を早め。

 目を凝らすと、正面の扉が壊されていることが分かった。あそこから内部に侵入したに違いない。

 廊下の壁際には多くの人が倒れていた。

 恐る恐る横目に見ると、彼らは胸にバッジを付けていた。目を凝らして見ると、 東京電力と書かれており、彼らは発電所の職員なのだろうということが分かった。

 彼らはただ倒れており、生きているのか分からなかった。


「ちょっと、怖いわね」

「ああ、でもアルデールがここに来てることは間違いなさそうだ」


 アルデールを見つけるのには苦労しなかった。

 そのまま廊下を歩いていくとアルデールがいた。ハルトたちに気付いたらしく少し呆れたような顔で言った。


「あなたたちですか。私は忙しいので彼らにお任せることにしましょうか」


 アルデールが右腕をかざした。

 背後から目が虚な大人たちがふらふらと歩み寄ってきているのが分かった。

 ハルトは彼らに訊いた。


「あの、この発電所の職員の方達ですか?」


 彼らはその言葉に応えることはなく歩みを止めることはなかった。

 エリナは叫んでいた。


「ダメよ。あの人たち、言葉が通じないじゃない!」

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第1章 魔法使い出現する 山本純也 @v32r5de4

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