デストラップ=リハーサル

ちびまるフォイ

恐怖と秘密がモットーのリハーサル

『おはよう』






『おはよう、きると君』





『おは……起きろよ!!』



「ここは……な、なんだよこれ!?」


きると君は体に取り付けられた鉄のしかけに恐怖した。


『君の体にはいくつもの鉄のトラップが取り付けてある。

 取り外す方法はただひとつ。先に進んだところにある瓶のーー』


「あ、取れた」

『え?』


「どこだよここは!? 早く出してくれよ!」


『ちょ、ちょっとまって。何したの? え? ん?』


「この鉄の尖ったところを鍵穴に突っ込んでねじった」


『……あっ、そういうパターンでいけちゃうの……?』


しばらく声が止むと、密室に覆面をつけた犯人がやってきた。


「うわぁ、本当に外れてるよぉ……せっかく準備したのに」


「お前! ここはどこだよ!」

「落ち着け。今からちゃんと話すから」


「お前は誰だよ! 今日は何日だよ!」

「ひとつずつにして!」


犯人は息を整えてつつレポートを出した。


「あのね、ほら、君前にデスゲームのテスターに応募したこと覚えてる?」


「……ああ、そんなこともしたような」


「で、見事当選したわけ。それで君を拉致して、情報を与えずに

 できるだけ本番に近い状況で死のゲームのリハーサルをしようとしたわけ」


「でも外れたよ」

「うんまあ……それは……ちょっと治すね」


ふたたび体にはトラップが取り付けられる。


「じゃあ、もう一回最初から。監視ルームに戻るね」


犯人はいそいそと部屋に戻ると、ボイスチェンジャー越しの声が密室に響く。


『おはよう。それではゲームのルールを説明しよう。

 目の前にタイマーがあるのが見えるかな。

 あのタイマーがゼロになったとき、鉄の骨が君の内臓に突き刺さるだろう。

 

 それまでに目の前にある瓶を飲み干すのだ。

 瓶には消化液が入っている。喉がただれれば喉に貼り付けてある鍵が外れるだろう』


「なるほど。消化液を鉄にかけて溶かせばいいのか」


『ちょっ……』


ギギギギ。


犯人が密室(笑)に駆け込んできた。


「そういうのやめて!」


「いやだって……」


「なんなの! ちゃんとルールに従ってよ! ズルするなよ!

 お前あれか! ちゃんと説明書見ないでやるタイプか!!」


「連れてこられた相手が従うとは限らないだろう」


「従ってよ!」

「穴だらけすぎるだろ」


犯人はぷんぷんと怒って戻っていった。


『良い忘れていたが、もし、私の手順どおりに従わなければ

 別室にいるお前の家族のトラップが発動して八つ裂きになるだろう。

 

 ……どうだ、これなら従わざるを得まい』



「本番では被験者とは別にもうひとり確保する必要が出てくるぞ。大変だな」


『うっさい! ばーか! ばーか! いいからさっさとやれ!』


「はいはい」


テスターは消化液を飲み干して自身の喉にくっつけてある鍵を外す。

取り出そうと前かがみになったとき、


「あ」

『え?』


「……」


『え? ここつまづくとこじゃないっしょ?』


「飲んじゃった……」


『バカなの!?』


ふたたび密室に犯人がかけつける。


「あーーもう、なんで飲んじゃうかなぁ。鍵一個しかないんだよ。

 命かかってたら丁寧に取り出すでしょ!?」


「鍵が小さいのがいけないんだよ」


「どうしよう……自分からかっさばく用の刃物おいておくかな」


「刃物ならすでにこの部屋にたくさんあるじゃないか」


「あれはインテリア。雰囲気出すためにおいてあるだけで本物じゃない。

 本物の刃物おいて、ゲームの途中で自殺されても困るし」


「でも飲んだ場合どうするんだよ。おしりから出るまで待つのか」


「ええ……ばっちいなぁ……」


「普通に体に入れればいいだろ。入れ墨みたいにコードを入れて、

 自分の皮膚や体を切ってQRコードを集めて鍵にする、みたいに」


「ハイテクでいまどきっぽい!!」


犯人は試行錯誤の末にゲームの内容を切り替えることにした。

その後もテスターのあら探しを受けては犯人は死のゲームに調整をかけた。


やがて抜け穴のない完璧な状態に仕上がった。


「本当にありがとう。やっぱりリハーサルやっておいてよかった。

 ぶっつけ本番だったら確実に失敗してたよ」


「まあ、いろいろ細かく分析するのになれてるから」


犯人はテスターを解放し、今回の反省をいかして準備を始めた。

数日後、本番用の被験者を捕らえると密室に閉じ込めた。


犯人は自信たっぷりに声をかけた。



『おはよう』



被験者は目を覚ますや、タイマーが動く前に仕掛けの解除へと手際よく動き出した。


『え、ちょっ……まだなんの説明も……』


あっという間に仕掛けを突破した被験者はルール説明する前に密室から脱出。

犯人は半泣きで被験者にしがみついた。


「待ってよぉ! ここまで時間とお金もたくさんかけたのに

 なんでそんなあっさりクリアできるの!? もっとちゃんと苦痛味わってよ!」


被験者は冷静に答えた。



「だって攻略wikiがあったから……」



wikiの編集者の名前を見て、後日犯人はテスターの自宅へと駆け込んだ。

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