第3話 レベルアップ

町の近くには、ダイヤモンドを散りばめたように美しく輝く川が流れている。その川沿いに生えている大きなススキに似た植物の近くを通ると、いきなモンスターの影が現れた。


「おっ、エンカウントしたぞ。」


「何ですか。こいつは…スライム?」


「この世界は、敵が無駄に現実的な設定だから、どうせ無駄だと思うけど、そのひのきの棒で叩いてみてよ。」


「なんで無駄だってわかっててしないと駄目なんですか!」


「いいから。ゲームによって使用が違うだろ。ドル〇ーガしかり、ド〇クエしかり、倒せる可能性だって大いにあるぞ。それに攻撃しないと経験値がもらえないかもしれないし。」


「うーん、わかりましたよ。所詮は缶に入った子供のおもちゃ。くらえぇ!」


ハルカは、エメラルドグリーン色のスライムにひのきの棒で殴り掛かった。


振り下ろされたひのきの棒は、スライムの身体をきっちり真ん中で二等分し、スライムは二体に分裂した。


“スライムに物理攻撃はききません。むしろ分裂して増殖します。”


「ちょっとZiri!もっと早く言ってよー!っきゃあ!」


スライムはハルカに襲い掛かった。


「はいはい。教え子の桃色シーンは同人誌の方でお願いします。おらっ、スライム死ねぇ!」


猫屋敷は指輪をはめた手を、ハルカの服を溶かそうとするスライムの身体に突っ込んだ。


「うぉお。ぷにゃぷにゃして気持ちいいな。」


「先生!早く倒して!服が全部溶けちゃう!」


半泣きになるハルカは少し際どい感じの恰好になっていた。


「目のやり場に困るだろうが!都条例に反したらどうする!」


猫屋敷が拳をぎゅっと握ると、彼の手のルビーの指輪が光り、ジュワーっと水分が蒸発する音をたてながらスライムはどろどろに溶けた。


「早く、もう一匹!あっ、そんなところだめー!」


「際どい声出すなっ!どこを侵食されても、黙って平然としてろっ!」


「無理言わないでください!あぁっ、ちょっとー!」


猫屋敷は目を伏せながら、残ったスライムにも同様に加熱処理した。


“テレレ テッテッテー”


「おぉ、レベルあがった。そして勝利のファンファーレ流れ出した。もう色々ごちゃまぜだな。」


「うぐぅ…。ひどい目にあいました…。」


ハルカは半泣きでへたり込んでいる。


「これ着ときなよ。」


猫屋敷はなるべく、彼女のあわれな姿を見ないように努めながら、自分のグリーンのコートを渡した。


“この調子でレベルを上げると、不意打ちで刺されても簡単には死にません。”


「なるほど、レベルマックスになったら、カイ〇ウやビッグ〇ムみたいな身体になるんですね。」


「そりゃ無理だろ。あんな最強の身体、どうやって倒すんだよ。最近すごい心配で読んでるんだけど。」


「本当どうするんでしょうね。ギアをもう二段階くらい上げたらいけるんじゃないですか。」


その後も二人は町の近くに出現するモンスターを倒してレベルを上げていった。


「あの初見殺しの山賊だけど、初手の攻撃を避けたらもう倒せるじゃないか。」


「そうですね。隣町まで行ってみましょうか。」


二人は砂利道を進みながら、隣町の近くまで向かった。


「そろそろでしたね…。」


「あぁ、用心しながら進もう。」


初見では気づかなかったが、道沿いの茂みを過ぎた後、山賊が静かに近づいている気配を感じた。


猫屋敷とハルカは、ばっと勢いよく後ろを振り返った。ナイフを持った山賊を正面から迎え撃つ。ハルカは上手く山賊の攻撃をかわし、ひのきの棒を振り抜いた。山賊の後頭部に直撃し、男はばたりと地にひれ伏した。


一方の猫屋敷は、上手く避けきれずに再びどてっぱらを刺されていた。


「ちょっと、先生。何やってるんですか!?」


「いや、やっぱ運動不足だわ。分かってたけど避けれなかった。」


猫屋敷は腹部を刺されながらも、しれっとした顔でそう言った。そしてナイフを持った山賊の手をにぎると、ぐっと力を入れて緋色のルビーが光った。


「あっちぃー!」


山賊は慌てて猫屋敷に突き刺したナイフを手離した。


「さて、この野郎をどうしてやろうか。」


「私達、こいつらに一回殺されてますもんね。やっちゃいましょうか。」


「そうだなぁ。多少は痛い目見てもらおうか。」


“山賊は仲間になりたそうにこちらを見ている!なかまにしてあげますか?”


「「いいえっ!!!」」


猫屋敷とハルカは二度と悪さができないように、山賊をぼこぼこにこらしめた。ハルカは意識を失った山賊の所持品をあさり、金目のものと武器を手に入れた。


「さて、タ〇シを撃破しましたね。ジムバッチゲットをもらいたいところですが、金とナイフで勘弁してあげましょう。」


「容赦ないなぁ。追いはぎなんか教えた記憶ないぞ。自分の生徒ながら怖いよ。」


「商人ですから。金目の物には敏感なのですよ。」


「まぁいいか。それより、もうすぐ隣町に入るな。」


「そうですね。早く宿についてセーブしたいところですね。」


「初期のド〇クエじゃ、町に入った瞬間、ゴーレムとエンカウントするっていう…。」


猫屋敷がそう言いながら、隣町に入ろうとした瞬間、砂埃を舞いあげながら地響きをならし、黄土色のレンガでできた丈夫な巨体のゴーレムが突如現れた。


二人はゴーレムを見上げながら、武器を構える間もなく押し潰された。


“あなたは死にました。”


最初の町の教会で、猫屋敷とハルカの二人は目を覚まし、大きなため息をついた。


「潰される時の感覚…最悪だったな。」


「そうですね…。」


「異世界も…なかなか甘くはないなぁ。」


「そうですね…。」


「魔王倒して、早くぼくたちの世界に戻ろうか…。」


「はい…。」

 

現実世界へ帰るべく、魔王を倒す二人の物語は続く。 


とりあえず、完

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へい、Ziri!異世界への生き方を教えて。 冨田秀一 @daikitimuku

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