12 第11話過去へ(前編)

「ぴよぴよちゃん、可哀想かわいそうだったね」

 部室ぶしつて、昇降口しょうこうぐちへとかう最中さなか、ユミこと高橋裕美たかはしひろみちゃんがう。基本的きほんてきわたし以外いがいこと関心かんしんはらわないユミがうくらいなのだから、相当そうとうなものだ。

 すこさかのぼって説明せつめいしよう。

 こと発端ほったんは、あき文化祭ぶんかさい販売はんばいするための部誌ぶしである。例年れいねんであれば、それほどおかねをかけずに表紙ひょうし上質紙じょうしつしなのだが、ぴよぴよちゃんこと音無響美おとなしきょうみちゃんは、高級感こうきゅうかんのあるレザック66というかみ箔押はくおしという、おかねかるモノを提示ていじしてきた。

 なんでも、親戚しんせき のおねえさんがそれで同人誌どうじんしつくったらしく、その出来栄できばえにいたく感動かんどうしたらしい。

 可愛かわい後輩こうはいねがいである。とどけてあげたいとはおもう。わたしたち3年生ねんせいにとっても、最後さいご部誌ぶしであるから、素晴すばらしいモノをつくりたいというがないわけではない。

 とはいえ、元々もともと高級こうきゅうなレザック66というかみくわえ、箔押はくおしなどという最高級さいこうきゅう印字方法いんじほうほうをとっては値段ねだんがってしまうのだ。

 受験じゅけんひかえた3年生ねんせいにバイトなどをする時間的余裕じかんてきよゆうはないであろうし、わたしなどはほとんど小説しょうせつけていない。『バイトしてて、小説しょうせつけませんでした』では、なにをやっているのかわからない。

 そこで文芸部部長ぶんげいぶぶちょうにしてわたし恋人こいびとのコーキくんこと河野弘毅君こうのひろきくん説得せっとくにあたっていたところ、ぴよぴよちゃんはきながら部室ぶしつしてったのである。

 可哀想かわいそうではあるが仕方しかたがない。うちは母子家庭ぼしかていでおかねがないのである。

「ぴよぴよちゃん、このまま部活ぶかつめちゃったりしないかな?」

 ユミが、ドキッ、っとするようなことう。

「そうなったら、そうなったで仕方しかたないよ。でも、なるべくぴよぴよちゃんの理想りそう近付ちかづけてあげたいよね?」

「まあ、なかおもどおりにならないことばかりだからね。高望たかのぞみするのはくないよ」

「だよね」

 自転車置じてんしゃおまでって、そこでユミとわかれていえかえった。


 翌日よくじつ文芸部ぶんげいぶ部室ぶしつかまえていたのは――――――。

表紙ひょうし色上質紙いろじょうしつしちましょう本文ほんぶんはオフセット印刷いんさつしたモノを平綴ひらと正確せいかくうと無線綴むせんとじで自分じぶんたちで製本せいほんしてハードカバーふう仕上しあげますこれですと……」

 見事みごといきかえしたぴよぴよちゃんの姿すがたであった。

 それにしても、何故なぜうえから目線めせんなのか?

自己製本じこせいほんなんてハードルがたかいよ?」

 チコこと三ヶ月智子みかづきともこちゃんがうも、

なにをおっしゃいますか何事なにごとせばさねばならぬなのですよやるまえからあきらめるなんてちょっとこころざし低過ひくすぎぎますそれでも若者わかものですかそもそも若者わかものうのは……」

 わたるバルカンほうトークには、コーキくんすらすべがなかったようで、結局けっきょくぴよぴよちゃんにられるカタチとなってしまった。


「ところでぴよぴよちゃんはなにくの?」

 コーキくんたずねる。

わたしですかわたしはSFをこうとかんがえています親戚しんせきのおねえさんからSFのかたほんりてきたんですよおそれをてたらわたしきたくなってきちゃいましたそれで……」

 ぴよぴよちゃんがせきって、かばんからごそごそとなにかをすと、自分じぶんせきへともどってきた。

「じゃーん!このほんはなかなかに参考さんこうになることかれているのでみなさんにもご紹介しょうかいしますまずは一問一答形式いちもんいっとうけいしき部分ぶぶんから」

い、本文ほんぶんはじめた。


――質問しつもんします。SFのかたおしえてください。

おしえてあげましょう。原稿用紙げんこうようしつくえうえき、ペンをおもむろにげて、みぎうえのほうから一字一字いちじいちじマスめてゆき、区切くぎりのいいところでぎょうえて、また一字一字いちじいちじめてゆき、会話かいわはい場合ばあいぎょうえて「」かぎ括弧でかこむようにくとだれでもSFがける』

――SFを上手じょうずくには?

『なるべく値段ねだんたか原稿用紙げんこうようし使つかう』

――SF作家さっかとしてすには?」

『ファンを買収ばいしゅうし、批評家ひひょうか買収ばいしゅうし、書店しょてん買収ばいしゅうし、総理大臣そうりだいじん買収ばいしゅう愛読書あいどくしょひとつにくわえてもらう』

――長篇ちょうへんSFを秘訣ひけつは?

短篇たんぺんのラストに”つづく”とく』

――ショートショートのかたは?

『まず六十枚ろくじゅうまい短篇たんぺんかんがえ、それを十枚じゅうまいちぢめれば簡単かんたんける』

――SFをこころざ新人しんじん一言ひとこと

『SFマガジンを二冊にさつって二回にかいむこと』

――SFは文学ぶんがくですか?

『そういうマジメなはなしはよくわからぬ。SFもサシがあるうちは文学ぶんがくではない、であろう』

――SFの本格派ほんかくはとは?

わたしのが唯一ゆいいつ本格派ほんかくはで、ほかはみんな変格へんかくである』

――ファンに一言ひとこと

毎度まいど買上かいあげげいただいてありがたく御礼おれい申上もうしあげそうろう今後こんごともよろしくおひきまわしのほどおねが申上もうしあげそうろう

――先生せんせいのSFはSFのごとくにえてSFにあらず、というせつは?

『そのはなしは、わたしにもよくわかりかねます』


 ぽかーん。あまりの内容ないようにみんな言葉ことばてこない様子ようす。コーキくん苦笑にがわらいしている一方いっぽうで、『どうですか』とわんばかりにむねらすぴよぴよちゃん。

「なんだよ、それ? どこのパチモン作家さっかだよ!」

と、ショーマくんこと江口翔馬君えぐちしょうまくんたずねる。

 あ〜、たしかにそうおもうよね? らないひとは。わたしってたけれど。

星千一ほしせんいちって作家さっかぞんじないですか? ミリオンセラー18冊じゅうはっさつ超売ちょううれっらしいのですが?」

ほん表紙ひょうしをこちらにけるぴよぴよちゃん。

「まさかの『ショートショートの創世主様そうせいしゅさま』?」

 ショーマくんが、じゅうたれたかのようなリアクションをりつつつくえして、んだ🔫

 パチモンどころか、全世界ぜんせかいまれる超一流ちょういちりゅうどころである。

 それよりもわたしおどろいたのは、ぴよぴよちゃんがほん朗読ろうどくするときは、きちんと句読点くとうてんれるということであった。

 それはともかく。

「ぴよぴよちゃんも、SFをくんだ? ライバルだね」

 わたしがって、ぴよぴよちゃんのほうあるいてく。ぴよぴよちゃんはわたし右隣みぎどなり右隣みぎどなり、つまりユミのとなりせきだ。右手みぎてす。

「はい我妻先輩わがつませんぱいにはけませんから」

いつつ右手みぎてしてくる。がっちりとかた握手あくしゅ

 まえていたユミが、

わたしもSFをくよ♪」

右手みぎてしてきたが、それを無視むししてせきもどる。

「ちょっと、おゆきちゃ〜ん(なき)」


 そんなこんなで部誌ぶしのめどもついた。

 なるべくはや原稿げんこう仕上しあげて印刷いんさつし、製本作業せいほんさぎょうをする。終了目標しゅうりょうもくひょう夏休なつやすまえ中間ちゅうかん期末きまつテストもあるため、執筆しっぴつてられる時間じかんはそうおおくない。

 予定よていまったところで、わたしいえかえことにした。途中とちゅう本屋ほんやさんにって、お目当めあてのほんれ、ほくほく気分きぶんてきたところでこおりついた。自転車じてんしゃのカゴにほんみ、全力ぜんりょくはしる。

 わたしうつっていたのは――――――。

 小学生しょうがくせいくらいのおんなが、ぼけっとしながら赤信号あかしんごう横断おうだんしようとしていて、そこにはしってくる大型おおがたトラックの姿すがた

 わないっ!

 時間跳躍タイムリープ

 もどったのは書店しょてんなか。レジで支払しはらいをしているところだった。はやる気持きもちをおさえておりをり、ほんいそぐ。『大丈夫だいじょうぶう』と自分じぶんかせる。ふたたび、先程さきほど場面ばめん。だが、すこまえ状況じょうきょうだ。自転車じてんしゃのカゴにほんみ、全力ぜんりょくはしる。なんとかいそうだ。

あぶない、まって〜!」

 はしりながらさけぶもおんなまらない。道路どうろたところでおんなまり、こっちをた。莫迦ばかっ! 何故なぜ、そこでまるっ!

 おんな気付きづいたのか、ギギャァァ――――ッと、トラックのきゅうブレーキのおと

 えっ!

 わたし右手みぎてばしておんな歩道側ほどうがわせようとする。がっ!

 直前ちょくぜんおんな姿すがたえた! 一瞬いっしゅんなにこったのか、理解りかいできず、くと。

 わたしはトラックにばされていた。


 恒例こうれい次回予測じかいよそく

(おんな)わたしわるくないよ? おゆきちゃんが、勝手かって道路どうろしたんだもん!


 次回じかい、おゆきちゃんは過去かこっちゃうんじゃないの? タイトルもそんなかんじだし?

 大切たいせつことだから2かいうよ?

 わたしわるくないよ? 全部ぜんぶおゆきちゃんがわるいんだからね!

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私は私のお母さん 魔女っ子★ゆきちゃん @majokkoyukichan

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