常識を逆転させることからインスパイアされてみる

■ふたつのものを入れ替えるからインスパイアされてみる

立場を入れ替えてみると、思わぬ鉱脈が見つかるものです。


たとえば、動物と人間を逆に入れ替えた「猿の惑星」などが一番わかりやすいでしょう。

男と女を入れ替えれば「転校生」「君の名は」

正義と悪が入れ替わる「フェイス・オフ」

母と娘が入れ替わる「秘密」「フォーチュン・クッキー」

美女と醜女が入れ替わる「累」

入れ替えるをキーワードに インスパイアされてみます。


異世界ものなら、すぐ浮かぶのは、魔王と勇者がひょんなことで入れ替わる。

安易ですが、立場が変わることで、お互いの正義があると知り、ある意味一番わかりあえるというまずまずシリアスパターンはどうでしょう。

「正義の反対は、また別の正義」というのを、丹念に描くのもいいでしょう。


コメディなら。お互い敵だと思っていたら、ちょっとしたところ折り合えれば、Win-Winになれることがわかり、両方であうんの呼吸で『茶番』を演じて、かたや魔界のナンバー1魔王、勇者も天下一の勇者になるという話。できレース的展開で頂点に登り詰めるが、それをおなじように入れ替わった新魔王と新勇者に知られて....という展開もおもしろいかもしれません。


正義と悪の概念が入れ替わった世界。

魔物を倒すためなら、村ひとつ滅ぼすくらい躊躇しないほど手段を選ばないのが素晴らしい勇者。防御に徹して自分たちの世界を不可侵にし、結果的に世界を分断しているのが悪の魔王。

残虐の限りをつくした「正義」を振るう勇者と、「静謐」のなかに自分たちの存在意義を問い続ける「魔王」。

読者が途中でどっちが正しいのかわからなくなるような世界観が作れると面白そうです。


他にも「正気と狂気」「生と死」など、考えるとシュールな方向に向かいそうなネタでもインスパイアされるのもありかもしれません。



ふいに、人間と動物の立場が入れ替わっている。しかも動物が人間と同じような姿で生活をしている世界でのストーリーが頭に浮かんだ。

人間とおなじ生活をしている世界観といえば、BEASTARS、ズートピア、先に言及した 猿の惑星、などがありますが、ここはあえて、人間も「ヒト」という動物として登場させてみてはいかがだろう。宇宙人だと人間が一緒に生活している話はよくあるのだが、どういうわけか動物と人間がおなじように生活している話というのはあまりないことに気づく。


その世界観でインスパイアされてみる。ジャンルはミステリ。ハードボイルドが頭に湧いてきた。


「あー、臭え、臭ぇ。どうもヒトの臭いがするな」

ワニの頭をしたアルコン主任が、つきだした口の先の鼻を無理やりひくつかせながら言った。

「すんませんね。アリゲー……、いえ、クロコダイル属の方には、さぞやご不快かと思いますよ。俺の臭いはね」

俺がわざと間違えてそう言うと、アルコン主任がぎろりとこちらを睨みつけてきた。こちらからすれば同じワニ目なのだから、ぶっちゃけ見分けがつかないのだが、クロコダイル属はアリゲーター属やカイマン属に間違われるのを嫌がる。下手すると『牙が欠ける』ほど怒りくるう。

 今、ここが事件現場で、検視の最中でなければ、おそらく、腕一本くらい持っていかれるほどの目にあっていたかもしれない。

 アルコン主任はあきらかに「喰意じきい」のこもった目で、俺を睨め付けたが、俺はそれを無視して、目の前に横たわる遺体のほうに集中しているふりをした。

 死体は、カバ属の男だった。ただ、初見ではそれが本当にカバ属なのか自信が持てなかった。あまりにやつれていたので、ばかでかいカピバラにも見えなくもなかったからだ。

「おい、ヒト属。さっさと手を動かせや。おまえらは手先が器用なくらいしか取り柄がねぇんだからな」

「すんません。アルコン主任。俺はヒト属ですけど、一応、入間 世界っていう名前がありましてね。そっちのほうで呼んでもらえませんか」

「けっ。ヒト属の分際でずいぶん生意気だな。絶滅危惧種保護法案とかなんとかいうやつが、世界政府で定められたらしいが、こんな田舎の街までは届いちゃいねぇんだよ」

「主任、あまりごちゃごちゃ言うとると、ヒューマン・ハラスメント言うて、上にちくられまっせ」

 横からキリン属の新人刑事のドガティがアルコン主任の耳元に顔を寄せて言ってきた。からだのほうはまだキッチンを捜索していたので、首だけを無理やり伸ばしてきた格好だ。

「わかってるよ。ちょっとからかっただけだ」

「弱い種属いじめんのは、処罰の対象なるぅて、この間の説明会でも言われとったでしょ」

「ドガティ、わかってるよ。ヒトが俺らに比べて、足は遅いし、力もないし、目も耳も悪い。海の仲間と比べりゃ、泳ぎも遅い。すぐれたところがひとつもない種属だってことはな」

 さりげないあてこすりをしてきた。注意されていてもまだディスるのをやめるつもりはないらしい。できれば検視のほうに集中していたかったので、俺は机の上に乗っかっていたボールを掴むと、アルコン主任にむかって投げつけた。ボールは『彼女』の耳元ギリギリを掠めるように飛んで行くと、キッチンのシンクにぶちあたってボコンと音を立てた。

 ボールがぶつかりそうになったアルコン主任が、血走った目をこちらにむけた。

「あ、悪いっすね。つい投げちゃいました」


「生物のなかで、ものを投げる力が強いのは『ヒト』なんでね」


 ヒトが動物より下に見られている世界で、突っ張って生きているハードボイルドな主人公。おそらくこのあと、ヒトだけに備わっている『頭脳』を駆使して、事件を解決していく爽快な話しになりそうです。


ま、書くつもりはないのですが(笑)。


今回は、物事を逆にしてみることで、インスパイアされた話しでした。


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ーアイディアの浮かばせ方入門ー 多比良栄一 @itsuboku

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