秘密の庭

ゆい さくら

第1話

 祖母が死んだ。

 祖母が子供の頃から住んでいる家は、もう大分古く、今どきのバリアフリーなんて言葉を知らない造りだった。しかし昔はそれなりに裕福だったらしく、広さは一軒家にしては随分とあり、部屋数も多かった。そんな家に祖母と、長男である父の家族、つまり俺も含めて5人が先日までは暮らしていた。

 祖母は厳しいというよりは、無口な人であった。注意をされたことはあるけれど、叱られたことはない。世のおばあちゃんの印象は、きっちりとして厳しいか、にこにことして甘いかの二つが多いように思うけれども、どちらにも当てはまらなかった。

 近寄りがたい。子供心にそう思わせるような雰囲気を持っていた。話しかければ返事をくれるが、祖母から声をかけられることはほとんどなかった。必要最低限。食事時にだけ顔を合わせる祖母は、俺たちが話す内容を聞いてはいても、口を挟むことはなかった。

 そんな祖母であったから、一つ屋根の下に住んでいても知っていることは少ない。祖母の部屋に入ったのも、小学校低学年の時が最後だったと記憶している。もう高校生になった俺には十年前の出来事で、ほとんど何も覚えていない。

「裕介ー、ちょっと来てー」

 大声で呼ばれて向かうと、祖母の部屋を整理していた母が困った様子だった。

「ねぇ、ここの鍵、知らない?」

 ここ、というのは、祖母が使っていた和室にある扉だった。押し入れとは別に、その横になぜか洋風の扉が一枚、備え付けられていたのだ。アンバランスだが、その扉自体は綺麗な細工が施してあり、落ち着いた色合いがあまり違和感を目立たせない。

「俺が知ってる訳ないじゃん」

「もう、そんなこと言ってないで、あんたも探すの手伝って」

 押し入れやら引き出しやらから引っ張り出された物たちに埋まった部屋は、まさに足の踏み場がないという状態だ。これでは見つかるものも見つからないだろうと言いかけてやめた。母に言うと、小言と合わさって何倍にも返ってくるからだ。

「ちゃんとお義母さんに聞いておけばよかった」

「まぁ、急だったし」

 祖母が亡くなったのは、交通事故だった。横断歩道を渡っていたが、信号無視をした車に撥ねられ、打ち所が悪くそのまま。運転手は職務中のトラック運転手であり、過労による居眠り運転ということで、何とも後味の悪い話だった。

「私、そろそろ晩御飯の支度しないといけないから、鍵探しておいてちょうだい」

「……見つからないと思うけど」

「それならそれで、後でまた探すからいいの。ただほら、私が見落としてるかもしれないでしょ?」

 確かに、そういうこともあるかもしれない。つい納得してしまった俺に、母は「じゃあ、よろしく」とさっさと部屋を出て行ってしまった。引き受けてしまったからには、一応探した形はとるべきだろう。見つかる気がなかったとしても、体裁は必要だ。

 しばらく適当に物の間をかき回すように探しながら、久しぶりに入った祖母の部屋を眺めていた。そういえば、こんな部屋だった。前に祖母に招かれた時には、こんな風に散らかっていなかったし、俺も小さかったから、もっと広く感じたものだったけれど。

 そこでふと、俺はなぜこの部屋に入ったんだったっけ? という疑問が湧いた。あの時は確か、とても珍しいことに祖母の方から話しかけられたのだ。「私の部屋に遊びにおいで」と。当時からすでに近寄りがたさは感じていたものの、何をするのだろうという興味もあって、俺はそのまま祖母の部屋に遊びに行ったのだ。そこで俺は、祖母と何をした?

 思い出そうとしていると、つい手が止まっていた。夕飯ができたと母に呼ばれ、結局鍵は見つからなかったと伝えたら、「明日また探さないとねぇ」と独り言で返された。俺に付き合えと言っている訳ではないと、俺は思い込んでおく。


 ベッドに入って、夕方の続きを考えていた。なんだかもやもやするのだ。思い出しそうで、思い出せない感覚。もう、そこまで出かかっているという不快感。

 何かの話を聞かせてもらったのだ。そう、俺はそれにすごく夢中になったはずだった。普段はあまり聞かない祖母の声を、その時はもう一生分喋ってるんじゃないかと思うくらいに聞いていた。でも、それを今まで忘れていた。なんでだ? ……そう、祖母が、秘密だと言ったからだ。そして、俺の手に握らせた。……鍵を。

「あ、鍵」

 そうだ、鍵をもらったのだ。何の鍵かと聞いた俺に、祖母は「お庭の鍵」と言っていた。扉の鍵とは言っていなかったけれど、もしかしたら。

 消していた電気をつけ、寝静まっている家に音を立てないよう、静かに自分の部屋を漁る。どこに仕舞ったのか、それすらも曖昧だ。今の祖母の部屋のように、俺の部屋も物が散乱する。片付ける時には骨が折れそうだ。

 知らない人が見れば、泥棒が入ったのかと思われてしまいそうなほどに大惨事の部屋の中、カーテンが仄かに光始めた頃に、俺はようやくそれを見つけた。

 あの扉に合いそうな細工が施してある、ひんやりと冷たい真鍮の鍵。それ単体で価値のある芸術品になりそうな、俺が持っていてはあまりにも不釣り合いな鍵だった。

 足音を忍ばせて祖母の部屋へと向かう。ここまできたからには、今すぐその鍵が合っているのかを確かめたかった。襖を開いて祖母の部屋に入ると、俺が出た時のままになっていた。足の踏み場を慎重に確保しながら、扉の前まで進む。

 ドアノブの下に鍵穴がある。試しに一度回してみたけれど、鍵がかかっていて扉は開かない。そして緊張しながら、持ってきた鍵を差し込んでみる。スムーズに入ったそれを、ゆっくりと回す。カチャリと音がした。

 開いてしまった鍵。見ても良いのかという不安。それでも抑えられない好奇心。深呼吸をして、ドアノブを回し、扉を引く。万が一、中に入っているものがぎゅうぎゅうに詰め込まれていても、雪崩ないようにと、ゆっくり。

 しかし俺のそんな心配は杞憂だった。なぜなら中には何もなかったからだ。何もない、というのは、物がない、という意味だ。しかし、空間ならある。それも、広すぎる程の。

 太陽の光が降り注ぐ花畑。最初に見えたものはそれだった。今が明け方だったという事実は頭から消えていた。あまりにも綺麗な花たちが、咲き誇っている。広いその花畑の終わりは見えていて、そこにはガラスがあった。遠くて確かめられないが、おそらく、ガラスの類。それは壁のように続き、天井までも覆っている。ドームの形は、植物園を連想させた。それにしては、背の低い花たちだけが植えられている。

 遠くに背を向けた人影が見える。水色のワンピースを着た、髪の長い人。

 ここは何なのか、祖母の部屋からどうしてこんな場所に繋がっているのか。疑問をぶつけたい気持ちと、なぜか彼女にどうしようもなく会いたい気持ちが重なって、俺は扉の中に足を一歩踏み入れた。

 背後で扉がパタンと音を立てて閉まった。

 

 狭いながらも道ができている花畑を進む。思ったより距離があった。

 植えてある花は、俺でも知っているチューリップやコスモス、デイジー、タンポポまである。他にも見たことはある程度の花もあったけれど、こんなに多種の花を一緒の土へ植えられるものなのだろうか? 花壇のイメージは、それぞれ花の種類毎に分かれていて、花束になってようやく様々な花たちが集まるものだと思っていたのだが。それにチューリップとコスモスでは、明らかに季節が違う。

 増えた疑問を抱えながら近づくと、その人は思ったよりも若いということに気が付く。こういう場所の管理をしている人だから大人だろうと、勝手に思い込んでいたのだ。その人は俺より年下のようだった。足音に気が付いて、こちらを振り返る。

 水色のワンピースの裾がふわりと舞った。黒髪が目の前で揺れて、視界から隠れる。代わりに現れたのは、見上げてくる大きな目と――

「うわっ!」

「えっ? あ! ごめんなさい!」

 少女の手から撒かれていた水だ。高そうなしっかりとした如雨露から放たれた水が、俺のズボンを濡らす。幸いすぐに少女が止めてくれたので、あまりひどいことにはならずに済んだ。

「大丈夫」

「本当ですか? ありがとうございます」

 改めて見た少女は、初めて会ったというのに、どこか懐かしい感じがした。

「あの、あなたは……?」

「あ、俺は裕介、です」

 明らかに年下だけれど、初対面の相手に、敬語がまごつく。

「裕介さん。私はリリィと申します」

「あ、えぇと……よろしく?」

「はい、よろしくお願いします」

 丁寧に頭を下げるリリィに釣られて俺も頭を下げる。いやいや、こんな暢気なことをしている場合ではない。

「あの、変な事言ってるって思われるかもしれないんだけど。ばあちゃんの部屋の扉を開けたら、ここに繋がってて。どういうことなのか、ちょっとよくわかってないんだけど。えっと……リリィ、ちゃん? は、何か知ってたり……しますか?」

 頭がおかしい人だと思われたらどうしよう。嫌な汗がじわりと湧いてくる。

「リリィ、で良いですよ。緊張なさらないで。えぇと、そのおばあ様というのは、小百合さんのことでしょうか?」

 俺の態度を気に留めず、リリィが少し考えるようにして言った。小百合というのは確かに、俺の祖母の名前だった。

「そう、小百合。知ってるの?」

「えぇ、もちろん。というより、小百合さんにしか私はお会いしたことありませんから」

「どういうこと?」

 聞き返す俺に答えず、リリィはその場にしゃがみ込む。その足元には、枯れかけた花があった。

「もしかして、小百合さんは……亡くなられたのですか?」

「えっ……うん」

 迷ったが、事実を変えることはできない。それにリリィの様子から、なんとなく察していたようにも見えた。

「そうですか。やはり……いえ、仕方のないことです。人はいつか死を迎えるものです」

 頷きながら、俺に言うというよりは、自分に言い聞かせるようにリリィが呟いた。

「それで、ここって?」

「その様子ですと、小百合さんからは何もお聞きになっていないんですね」

 少し寂しそうな、切なそうな表情でリリィはこちらを見上げた。その顔に、胸を締め付けられる。それでも俺は、何も知らない。いや、昔に、祖母から聞いた話があったのだったっけ。しかし内容までは、やはり覚えていないままだ。

「ごめん。聞いたことあるかもしれないんだけど、覚えてないんだ」

「そうですか。いえ、良いのです。ここはですね、きちんと説明すると長くなってしまうので、簡単に言ってしまうと……小百合さんの、秘密のお庭、といったところでしょうか」

「秘密の、庭?」

「えぇ。誰も知らない、小百合さんだけの、秘密の場所なんです」

 立ち上がったリリィが悪戯な表情に変えて、くるりと両手を広げてみせた。

「ここは誰も入れないんです。鍵で扉を開けない限り」

「俺が持ってたあの鍵か。ん? 待って、まぁその場所はわかったとして。なんで家の扉から、こんな広い場所に出るんだ?」

 家の構造的にもあり得ない。いくら広い家とはいえ、これだけの庭があれば気が付くし、祖母の部屋の間取り的にも、そのスペースは押し入れと同じ奥行きがあるだけで、後は家の外壁だ。

「それは簡単なことです。扉と鍵は結界になっています。つまりですね、これは魔法の類ということですよ」

 魔法。漫画に出てくる、あの魔法?

「うまく説明できないのですけど、簡単にいえばそんな感じです。それで、ここは小百合さんの作った『世界』ということです」

 話についていけない。さっきまで俺の頭が疑われないかの心配をしていたけれど、もしかして俺は逆に、この子の頭の心配をしなければならなかったのか。もしくは、すでに俺の頭がおかしくなってしまったのか。すべては俺が見ている夢で、あぁそうだ、きっと鍵を探しに起きたつもりが、眠って夢を見てしまったに違いない。あの時の俺はベッドに横になっていたのだから。

「お疑いでしょうね。無理もないと思います。でも、私に説明できるのはこれしかないのです」

 陰った表情に罪悪感が募る。しかし信じるのも難しい。

「いえ、別にいいんですよ、信じても信じなくても。この世界は、もうすぐ、なくなりますから」

「え、どういうこと?」

「創造主の小百合さんが亡くなった訳ですから。引継ぎの主がいないのであれば、そうなります。自然なことです」

 足元の枯れた花をリリィが拾い上げる。俺の足元にも、枯れた花がある。さっきまでより、目につく。

「もう終わりに向かっているんですね。花たちのおかげで、なんとなく察してはいましたけれど」

「えっと、ここがなくなったら、リリィはどうなる?」

「どうにもなりません。私はこの世界の一部なのですから、共に終わるだけですよ」

 なんでもないことのように言うリリィだが、それはつまり、死ぬと同義なんじゃないのか。

「死、とは違うんじゃないでしょうか。この世界にも死の概念はありますが、今回はこの世界の消滅ですから」

 わかりやすく伝えようとしてくれるリリィには申し訳ないけれど、俺は死と消滅の区別などどうでもよかった。ただ、目の前の少女がいなくなるという事実、それは変わらないのだから。

「どうしたらこの世界の消滅を防げる? 俺が引き継ぎだかをできれば、阻止できるのか?」

 考える前に言葉が飛び出していた。後のことなんて何もわからない。それでも目の前に存在している少女がこのままいなくなってしまうことを、ただ黙って見過ごすことができなかった。

 気が付いた時にはもう会えない。そんなことはよくある話だ。だから、まだ繋ぎとめる術があって、それが自分にできることなのであれば。俺は手を伸ばしたいと思う。

「裕介さんが、主に?」

 きょとんとしたリリィが首を傾げる。まるで思いつかなかったとばかりに。

「何か必要な審査とか、技術とか、えーと儀式とか? そういうの、あったりするのか?」

「そうですね……強いて言えば、鍵を持っていること、ですけれど」

 それはもうクリアしてますね、とリリィが言う。未だに俺の手には、入ってきた時のままに鍵が握られていた。

「本当に、裕介さんが、主になるおつもりですか?」

「だってこのままじゃ、ここがなくなっちゃうんだろ? こんな綺麗な花畑なのにもったいない」

 見渡すと、やはり枯れている花が、扉をくぐってきた時より増えていた。あまり時間は残っていない。

「それに、リリィだって。あ、こっちの世界にくるとか?」

「私を構成するものはこちらの世界のものですから。でることはできないのです」

「そっか。ならやっぱり、ここをなくす訳にはいかないじゃないか」

 せっかく出会えたのに。救えるかもしれないものを、見過ごせるはずがないじゃないか。

「わかりました。ありがとうございます、裕介さん。いえ、主」

 近づいてきたリリィが、俺の鍵を握ったままの手を両手で掬い上げる。そのまま祈るように目を瞑り、ぎゅうと力が込められた。

 手の中から淡い光が漏れる。徐々に明るくなっていった光が、眩しくて目を開けていられないほどになる。

 耳の奥で、カチャリという音が聞こえた気がした。

「終わりましたよ、目を開けて大丈夫です」

 いつの間にか固く閉じていた目をうっすらと開ける。あの光は消えていて、変わらぬ花畑が太陽の光に照らされているだけだった。

「ありがとうございました。そして、これからよろしくお願いします、主」

「いや、普通に名前で呼んでよ」

 そんな大層なことをした自覚もないし、実際に俺は何もしていなかった。あっという間にすべてが終わっていた、そんな感覚。

 握っていた鍵はもう光っていない。かわりに、ほのかに暖かく感じた。

「よろしく。っていうか、俺は何をすればいいの?」

 そこらへんの確認をすっかり忘れてしまっていた。聞いてから、とんでもないことを言われたらどうしようと思い至る。

「そうですね、ひとまずは……修復、でしょうか」

「修復?」

「はい。この世界は終わりかけていましたから、その名残があちこちにあります。例えばこの枯れた花たち。このように、予兆として壊れてしまったものが、いろいろな形であちこちにあるはずなので。それを修復していきましょう」

「えーっと……花の世話ってこと?」

「もちろんそれもありますが」

 言葉を切って、リリィが嬉しそうに笑う。

「ここはもう、裕介さんの世界です。見て回りましょう? 小百合さんの残したものと、変わっていく裕介さんのもの」

「見て回るっていっても……」

 このドームの中に広がるのは花と、俺が入ってきた扉がある小屋だけ。他に見るものなんて……。

「きちんと引き継がれたのですから、もうどこにでも行けるんですよ」

 リリィが指さしたのは、ドームの一部。気が付いていなかっただけなのか、いつの間にかできたのか、それは扉だった。同じガラスのような素材でできた、この花畑から出る扉。

 ここの外があるだなんて、俺はまったく想像していなかった。世界だなんて言いながら、この中だけで完結していると思い込んでいたのだ。

 俺がなくさずに済んだ世界。それはどれほど広くて、何があるのだろう。

「私も、一緒に行っていいですか?」

 恥ずかしそうに聞いてくるリリィに、もちろんと返す。この世界の初心者である俺が一人で進むのは心細い。

 嬉しそうに喜ぶリリィが可愛くて、少しときめいてしまった。今更だけど、この展開ってかなりオイシイのでは? そんな邪な心を持ってしまったのがいけないのだ。真実は全く、甘くないのである。

「こんなにいい子がお孫さんなんて、誇らしいです」

「あぁ、ばあちゃんのこと? 結構親しかったの?」

「親しい……まぁ、そうですね。でも、それだけじゃなくて。小百合さんは主ではありましたけれど、半身でもありましたから」

「半身?」

「はい。私は小百合さんの子供の頃の姿なんですよ」

 え、という言葉だけが口からでた。

「この世界を作った時に、小百合さんが自分の姿を模して、管理者として私を作ったんです。だから、私は半分くらいは小百合さんなんです」

 その後は別々に生きていますから、もちろん同一人物ではないんですよ、という言葉は右から左へ通り抜ける。どこかで会った気がしたのはこのせいだったのか。それにしても、自分の祖母、のような人物に、少しでもときめいてしまっただなんて!

「なので、裕介さんは主ですけど、私にとっては孫のようなものです。こんなに素敵な子なのが、嬉しいのです」

 自分より年下に見える子から孫と言われ褒められる複雑さ。甘い妄想は一瞬で砕かれてしまったけれど、早めに知れてよかったと思っておこう。一歩間違えれば、自分の祖母に危うい感情を抱くところだったのだから。

 内心で冷や汗をかいている俺のことなど知らないリリィが、楽しそうに、嬉しそうに、花畑の中をくるくると回る。それが本当に子供のようであり、半身だという祖母とはちっとも結びつかない姿だった。

 きっと、俺の知らないことが山とあるのだろう。そして、何も知らなった祖母のことを、初めて知りたいと思った。もう祖母はいない。会話をすることもできない。今更知りたいなんて、遅すぎて、俺のただのわがままかもしれないけれど。

 それでも。俺は祖母の残したこの世界を、きちんと知りたいと思ったのだ。

 目の前の少女に手を伸ばす。握られた手のひらが小さくて温かい。それをぎゅっと握りながら、あぁ俺は祖母の手の感触も温度も知らなかったな、と思い出していた。

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