エピローグ

最終話 Ambitious Eve


 MASKマスクの二度目のライブが終わり、年末が近づいてきたころ。

『ティンクル・シンフォニー』のプロジェクトに、新たなグループの登場が発表された。


 近日中にゲームにもキャラクターとして追加され、彼女たちを演じる声優は、私たちMASKと同じようにリアルでの活動もしていくらしい。

 これからも『ティンクル・シンフォニー』の世界は広がっていく。楽しみだ。


「彼女たちは手強いよ」

 不敵に笑う浅海あさみさん。


 コンテンツが軌道に乗ってきたところで投入される新グループ。より盛り上がっていく『ティンクル・シンフォニー』の未来を見据えて、色々と企んでいるのだろう。

 ここにきてようやく、彼の考えていることが少しだけわかるようになってきた。


「望むところです」

 小豆あずきが挑戦的な返事をする。

 私も同じ気持ちだ。そしてきっと、とも瑠璃るりも。


「ははは。みんな、たくましくなったね」

 浅海さんは苦笑する。


 ちなみに、今回の人選はスカウトではないらしい。オーディションを開催して声優を決めたそうだ。でも、オーディションということは、最初からアイドル声優として募集をかけているわけで……。


 私は考える。もしも今回みたいに、歌やダンスの活動も前提としたオーディションがあったとして、私はそれに応募するだろうか。いや、きっとしないだろう。


 だから今、私がこうしてここにいるというのは、間違いなく奇跡だ。

 奇跡というよりも、運命、といった方が正しいのかもしれない。


「それと、もう一つ。MASKの次のライブが決まった」

「えっ?」

 思わず大きな声が出てしまう。さらっと大事な話をしないでほしい。


「いつですか?」

 瑠璃がすぐさま食いつく。彼女の目は爛々と輝いていた。この前のアクシデントにも怖気づいている様子はない。さすがだ。


 ライブのあと、瑠璃は病院で検査を受けた。声が出なくなってしまった原因は過度のストレスで、一時的なものだという。

 それを聞いた私たちは深く安心した。


「来年の春。四月だ」

「かなり急ですね」私は言った。あと半年もない。「それまでにこの前もらった新曲も仕上げなくてはいけませんし……」


 先日、アニソン会の大御所とも言える作曲家から曲の提供を受けた。アニメに疎い小豆でさえ名前を知っているレベルの著名人だ。浅海さんは何でもない顔をしてその人の名前を出したけれど、私たちは飛び上がるほど驚いた。本当に、このプロデューサーは何者なのだろう……。


 そして流石というべきか、すごく素敵な曲に仕上がっている。現在、必死で練習中だ。


「でも、楽しみでしょ」

「はい!」

 浅海さんの問いかけに私が即答すると、他の三人と声が重なった。


 また新しくダンスの練習をしなくてはならないし、歌も覚えなければならない。もちろん声の収録だってある。


 やるべきことは山積みだけど、あの景色をもう一度見れるのならば、どんなきつい練習だって苦ではない。


 私たちは、これからもっと輝いていける。

 そんな、たしかな予感があった。


「あ、ちなみにそのライブの会場って、どこになるんですか?」

 疑問に思って浅海さんへ質問をしてみたのだが、その答えを聞いて、私たちはまた飛び上がるほど驚くことになる。


「ああ、次のステージはね――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

明日は今日より輝いて 蒼山皆水 @aoyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ