ウラLGBT

つくお

ウラLGBT

 男は最近よく耳にするLGBTというものを理解しようと思い、手作りした男性性器の模型をおでこにくっつけて外出した。

「それはLGBTとは違うぞ」

 駅前で待ち合わせた友人Yにさっそく指摘された。

「違うか」

「それはただの猥褻物陳列罪だ。デカイほくろだなんて言っても通じないぞ」

 Yは男のおでこについた男性性器を指で弾き、半笑いで言った。

「自分のがモデルかよ?」

 男は外人のモノをイメージして作ったのだと説明した。棒の部分は魚肉ソーセージ六本をゴム風船に詰めこみ、玉の部分は家のおもちゃ箱に眠っていたお手玉を活用した。自分でも思いのほかリアルにできた。

「こんなデカイわけないと思ったぜ」

 Yは軽く鼻を鳴らして指先でモノを弄んだ。

 男の目の前でそれがぶらんぶらん揺れた。かなりの大きさというか長さがあるため、視界が遮られるのが難だった。道路を渡るときなど、長い前髪をよけるようにそれをよけなければならないのだ。いずれにしろ、Yによればこの模型のせいでどんな苦労をしようがLGBTとは何の関係もないという。

「じゃあこっちもダメか?」

 男は恐る恐る自分の口許を指差した。

 それは口ではなかった。女性性器の模型だった。半ば開きかけたヴァギナだ。

「うお、なんだそりゃ!」

「こっちも作った」

「くそ。なんでそんなことをした」Yは怒ったみたいに言った。

「だからLGBTを――」理解しようとして。だが、男はそれを縦にくっつける勇気がなく、横向きにしたのだ。

「よくできてやがる」Yはぐっと顔を近づけてそれをまじまじと見つめた。

「従兄弟が3Dプリンター持ってるから」

 男性性器は男が自分で工作したものだったが、女性性器はちょうどうまい具合にネットにデータが落ちていたため3Dプリンターで作ることができたのだ。

「ちょっと触らせろ」

 Yは、男が許可しないうちにべたべた触ってきた。男性性器のときよりもずっと遠慮がなく、場所によってタッチも異なるようだった。

「これもダメか?」男はたじろぎながら言った。

「もちろんダメだ。お前は何か大きな勘違いをしているぞ」

 男はこれではLGBTのことを理解できないのだとがっかりした。そればかりか、Yによれば見る人に不快感を与えるだけだという。

「これって届くのか?」

 Yは男性性器と女性性器を交互につついて言った。男にも言っている意味が分かった。

「どうかな。そこまで考えてなかったから」

「ちょっと貸せよ」

 Yはやおらおでこの男性性器を掴んだかと思うと、下に引っ張って女性性器に突っ込もうとした。二つが離れていたため、かろうじて先端が触れ合うのが限度だった。

「くそ。なんだよこれ」Yは焦ったように言った。

 男はYの手を払いのけるべきか、それとも手伝うべきか迷っているかのように両手を宙に漂わせながら、されるままに突っ立っていた。

「一回はずすぞ」

 Yは言うや否や男性性器を無理やり引っこ抜き、それを男の鼻につけかえた。予想外にぴたりとはまり、見た目にもよりマッチした。まるで象の神様だ。

「ちょっと顎を上に向けろ」

 男は角度を合わせるように協力を強いられた。すると、棒の先端が女性性器の穴の部分にめり込むようにして入った。

「うほっ」

 Yはおかしな笑い声をたてて喜び、楽しげに男性性器を女性性器に出し入れした。

 男は、そのたびに自分の本当の唇に棒の先端がびたびた押しつけられるのを感じて不快感に顔を歪めた。

「こ、これでLGBTが理解できるか?」

 男は口をもごもごさせながら訊いた。

「もうほとんどLGBTみたいなもんだろ」

 Yは言ったが、執拗に手を動かすその目つきはどこか狂気じみていた。

 男はというと、我が身に起きていることが次第に他人事のように感じられはじめていた。

「くそ。変な気分になってきやがった」

 Yが口をへの字に曲げて言った。

「だ、大丈夫か?」

「うるせえ、こっちへ来い!」

 Yは首根っこを掴むようにして男を駐輪場裏の物陰に引っ張り込んだ。

 人目につかない場所だった。男は壁に両手をつかされると、顔についた両方の性器に後ろから手を回され、荒々しくしごかれ、かき回された。抵抗しようにも手足の自由が利かなかった。

 やがて、股の間に何か硬い棒のようなものを挟み込まれたと気づいたときにはもう遅かった。Yにやめるように言うと、男は顔面を壁に叩きつけられた。

「くそっ! くそっ!」

 Yは、悪態をつきながら乱暴に腰を動かし、一分ももたずに果てた。男は鼻血を垂れ流しながら、どうにもできずに耳元にYの荒い息づかいを感じていた。

「お前が悪いんだからな。鼻からちんこなんかぶら下げやがって」

 Yはあわただしくズボンをあげると、吐き捨てるように言って去っていった。

 一人駐輪場の裏に打ち捨てられた男は、少しだけLGBTのことが理解できたような気がするのだった。


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