第4話 岩園村

館からほんの少し山側へ登ると

岩園村がある

駅からはそう遠くない場所であるため

今では人気の高級住宅地である


そんな住宅地の中に今でも畑が存在する

夏になると朝採りの真っ赤なトマトを売りに出している

浅黒い農家の老人は、いつも口に出すことがある

ピンポン球ほどのイチゴを作っては、駅前の料亭に売り歩いていたと....

イチゴ一粒がタバコ一箱ほどで買ってくれたと

懐かしい思い出を語ってくれた

戦時中にイチゴが

お金をどんどん生み出す金の卵だった

春先には金の卵を持って岩園村から館へ

毎日売りに来ていた


時代は代わりこの館には庭師として

足を踏み入れた


それは

阪神大震災の1ヶ月あまりたってからであった


道路は寸断され、食料の配給がされ

公園には、自衛隊の特設入浴場に芦屋の市民は足を運んでいる時である

製薬会社の宿舎、寮として使われていたが近年はずっと空き家であったが

漢方薬仕入れ先の中国人バイヤー達が避難することになり

荒れ果てた庭を手入れすることになった

大きな倒れた木々や落ち葉を片付け

主人が庭に帰ってきたようだった


いや

帰ってきたのだった

落ち葉の下からは、水仙、ヒアシンス、など球根類が

顔を覗かせていた

埋もれていた表土が現れ、

生き生きとした庭が帰っていたのだった





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Secret garden @himitunohanazono

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