第3話 館の秘密

昭和初期に建てられたこの建物には

多くの歴史が秘められている

日本が絶世を極めたあの時代に

この館には、毎夜毎夜客人が訪ねてきた

海外からの要人が足を運ぶ場所であった

近隣の農家から

春は、大ぶりの甘い真っ赤ないちご

夏は、当時日本では珍しい甘くて水々しいトマト

秋は、六甲山の松林から朝採りの松茸

冬は、大きくてもっちりとした海老芋

毎日新鮮な山のものが手に入り

歩いて数分の海辺からは、漁師が

新鮮な魚を売りに来る

食材にはこと困らない立地にあった

そのせいか、美味しい料理を名物にした料理旅館も

近所に数軒あり、令和の現在も商いを続けている


この館の秘密は、新鮮な素材で心づくしの料理を

一流の職人が作り大切な客人をもてなす

迎賓館として使われていたことだった。


外交官やグローバル企業のオーナーなど

当時から巨大企業として名前の通った会社関係者ばかりが

あしげく訪れていたのだった

その話題は、戦局に関わる事柄であったり

時には一夜にして億万長者となるような情報であったり

裏事情とでも言うべき集まりであった


そんな客人の話題には関係なく

ただ美味しいの一言のために作り続ける

料理長は、この仕事がとても大好きであった

新鮮な野菜、魚、肉なんでも揃う

この芦屋が気に入っていた

特に野菜

館から少し坂を登ると岩園村という場所がある

料理長は特に仲のいい農家で

珍しい野菜を頼んで育ててもらうのだ

チコリ、ルバーブ、バジル、トマト、タイム、ローズマリー

西洋料理に欠かすことのできない香辛料もフレッシュで揃えることができる

その本格的な材料が気に入っているのである


今では、高級マンションが立ち並ぶ一角に

古びた納屋と綺麗に手入れされた畑を見ることができる

浅黒い老人が今でも

大振りのトマトを毎朝並べている

とれたての新鮮な野菜は彼のプライドであった

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