ー最終ー あの夜を越えた瞬間まで

「なーるほど。不死の呪い再会を迎えることで解けるのか」


 聞き覚えのない声に、彼女は彼の腕の中で周囲を見た。すると、少し上の空中を灰色髪の男性がふよふよと浮きながらこちらを見ていた。


「やぁ、お嬢さん。やっほー、人形」


 灰色髪の男性は地面に着地すると、礼儀正しくお辞儀した。


「お嬢さんは初見だからね。自己紹介しておくよ。僕は、魂の案内人。大昔は死神と呼ばれていた存在さ」


 にっこりと案内人と名乗る人が言うと、再び宙に浮き、座る体勢を取った。


「調べてみたけど、百聞は一見にしかずとは言ったものだね。まさか、本当に人形の呪いが解けるなんてさ。あ、意味わかる?」


 彼女の横に立った彼は「どういうことだ?」と返した。


「夜は太陽が出なくちゃ終わらない。太陽が出ることで初めて朝になる。うーん、変な言い回しだね。でも、そういう事なんだ。頑張って理解して」


 投げやりな案内人の言葉に、彼は困った表情を浮かべた。けれど、彼女はくすっと笑い、「そういう事ね」と案内人に言った。


「お嬢さんは理解が早いね。人形も見習ったらいいよ」


 案内人はにししと笑ってから、二人に言った。


「じゃ、残りの時間はごゆっくり。これが君たちにとっての、最初で最期の平和さ」


 案内人の身体がぼやけて消えていくのを、二人で見送った。


「最初は空っぽだったの」


 彼女が言った。


「オバケの姿で、貴方の事も全然覚えてなかった」


「…………」


「でも、貴方の姿を見て、すごく懐かしい気持ちになったの。それからは、夢に記憶の内容が出てきて……。今日、ようやく全部思い出せたの」


 彼女が彼に笑いかける。


 彼はそっと目を細め、「そうか」と返した。


 風が二人を包む。波のように揺れる草花が、静かな世界で音を立てた。


 彼の身体がふらつく。どうやら、彼にも限界が来ているようだ。彼女は彼と共に草花の絨毯で横になった。


「こんな、姿でごめん、な」


「姿が変わっても、貴方であることに違いはないでしょ?」


「………モネは、変わらないな…」


「そう?シオンも外見以外は変わってないよ」


「………そう、か…」


「…………シオンが、この世界を見せてくれたのね」


「……モ、…ネ…………」


「………一緒に眠りましょう、シオン」


 そっと目を閉じるシオンの髪を撫で、彼女は続けた。















「あの夜を越えた瞬間まで愛してくれた、私の愛しい人————」


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あの夜を越えた瞬間まで 雨中紫陽花 @nazonomoti1510

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