ー9- 再会

『モネ、モネッ!!』


 あの場所へと足を進めるたび、過去が行く手を阻もうとする。


『どこだ、どこに居るんだっ、モネッ!!!』


 真っ暗な夜。奇跡的に国に帰れた俺は、地下シェルターが襲撃されたことを知った。いくつもあるシェルターの内のひとつだからと、上の奴らは気にも留めなかったが、場所を聞いた俺はすぐさまその場所に向かった。


 モネが待つ、地下シェルターだった。


 シェルターがあったところは、外側から爆破され中身が丸見えだった。暗く何も見えない状態なのに、俺にはやけにはっきりと周囲が見えた。


 中に入り、モネの姿を捜す。所々に女性のバラバラになった死体が転がっていて、より一層モネの安否が不安になった。



 案の定、モネは死んでいた。



 腹部から多量の出血、倒れてもなお、何かを求めるように投げ出された腕。


 夜は、どこまでも俺を不幸にする。



 そっとモネのボロボロになった体を抱え、シェルターを出た。


『モネ、夜は怖いな』


 防護服も何も付けていない俺は、自分もモネの元に逝けるよう、汚染された大地をゆっくりと歩いた。


『………すぐ、そっちに行くから』


 目が霞み、全てが遠くなっていく感覚を全身で感じていた。


『……………モネ、俺、は――――――』


 そこからの意識はなかった。でも、次に目を覚ました時には、大勢の科学者に囲まれ、喜びの声を上げていた。


 身体が勝手に動く。上の奴らの指示で敵国に送り込まれ、手に持った武器で無差別に人を殺し続けた。核の影響を受けず、生き残った敵兵を皆殺しにする。そうして、自国以外の国の人類が、生物が滅びた。


 戦争に関係のない人たちまで、この手で殺めた。断末魔の叫びと、助けを求める声が今でも頭から離れない。


 罪の意識で精神がすり減る中、自国は戦争で勝利した喜びに浸かっていた。


 許せない。


 こんなに失ってまで、勝つ理由があるのか?


 人を兵器どうぐにしてまで、戦争に勝ちたかったのか?


 地球をめちゃくちゃにして、それでもお前らは勝者と言い張るのか?


 


 だから、殺した。自国で生きる人類全て。


 

 生物と言う存在が居なくなった世界で、俺は自国で秘密裏に造られていた核浄化プログラムを起動した。


 地球は徐々に表情を変えた。黒い雲が蓋をしていた空は青く、枯れた大地は草花に覆われた。


 鉛の雨は潤す雫へ、劈く銃声は風に揺れる木々の葉音へと変わる。


 幾年も過ぎ、人工物すらなくなったその世界は、モネが望んだ世界の姿。


 

 人であった時にモネの亡骸を抱えて意識を失った場所には、僅かに骨が残っていた。本当にどこかの欠片と形容する等しいぐらい、小さな骨。


 何日もかけて、その場に穴を掘り、彼女の骨をかき集めて流し入れた。その上に石を乗せ、彼女の居場所がわかるようにした。昔で言う、墓石だ。



 前までは毎日モネも元に来ていたが、来るたびにモネがこの世にいないことを痛感させられ、さらに死ねない自分に腹を立てていた。


 でも、今なら。


 彼女の眠る石の前に立つ。


 モネ、そこにいるんだろう?


 永い事言えなくて悪かった。でも、言わせてくれ。


 

 俺が意を決し、口を開こうとした時だった。


 

 肩に乗っていたオバケが、石の上でクルクルと回り、そして、俺を見た。


 笑いかけてきたその姿が、モネの姿と重なる。




『貴方が居なきゃ、真っ暗だったよ。シオン』



 

 黒髪の、柔らかな笑みを浮かべるモネ。


 

「ヴォ……ェ…、モ……ネ……ッ!!」





 声が戻る。




 重い何かから解き放たれた感覚が体を駆け抜けた。





 全てが明るく照らされる。




 オバケの姿は彼女の姿へと変わり、俺を抱きしめた。


 


 俺も彼女を離さないよう、強く抱きしめる。




 心地よい風が、モネの黒い髪をなびかせた。







 

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