ー8- 石

 何となく目が覚めた彼女は、眠っているシオンが涙を流しているのに気が付いた。


 どうしたんだろう、怖い夢でもみているのかな。うろうろと、その場でどうすればいいか悩んだ。起こせばいいのだろうか。でも、声は届かない。


 シオン、シオン。


 茶髪の髪を引っ張ろうとも、頬をつねろうとも、シオンは起きない。時々うなされた様に低く声を上げ為、なおさら不安が掻き立てられた。


 どうすることもできなくて、彼女は涙を流した。ごめんなさい、ごめんなさい、わたしには何もできない。ごめんなさい………。


『ごめんね、———』


 頭の中で声が響いた。同時に、シオンがゆっくりと目を覚ました。


 シオン、シオンっ!!


 彼女はシオンの胸元に飛び込み、泣いた。


 よかった、目を覚ました。目が覚めなかったらどうしようって、怖かった。


 感情をぶつける様に言葉を吐き出したが、シオンは不思議そうにこっちを見ているだけ。しかし、しばらくしてからシオンは彼女の頭を撫でた。触れている感覚はないが、どこか温かさを感じて涙が止まった。


 ようやく落ち着き、空を見上げれば、相変わらずの青さが広がっていた。


 その場を立ち、何かを決意したような表情を浮かべてシオンは歩き出した。彼女はシオンの肩に乗り、昨日と同じく次はどこに行くのか胸を躍らせた。


 青い空と緑の大地に挟まれ、変わらぬ景色が流れる中で、彼女はそっと目を閉じた。



『そう、番が来ちゃったのね』


『………すまない』


『なんで謝るのよ、悪いのは貴方じゃないでしょ』


『………』


『貴方が帰ってくるまで、ここで待ってるから。……どんな形であれ、貴方で変わりないもの』


『……………』


『信じて、待ってるよ』


『………行ってくる』


 夢。これは、彼女の記憶。徐々に鮮明になっていく目の前の状況に、彼女はあぁと声を漏らした。


 パズルのピースが一つずつ、彼女の記憶を埋めていく。


『ごめんね、———』


 あの声が、響く。


『ごめん、ね。——、—』


 目の前が赤く染まる。黒髪の女性を始めとした複数人の女性が赤く染まっていた。腕の無い者、下半身が無い者、頭が無い者、様々だった。


『夜、は、こわ……い、ね………』


 途切れ途切れに女性は言葉を紡ぐ。


『——、—、あ、なた、がいな……ゃ、まっく、ら―――――』


 女性はその言葉を最期に、動かなくなった。


 そこで彼女は目が覚めた。全てを理解し、自分が何者かであったかすら、今ははっきりとわかる。


 彼も、ようやく目的の場所に着いたらしく立ち止まった。


 彼の視線の方、そこには斜めに埋まった石があった。近くで、紫色のアネモネが風に揺れる。


 彼女は石の上までやってくると、その場でクルクルと回り、彼を見た。


 互いに、姿がずいぶん変わっちゃったね。


 彼女は、モネは彼に微笑みかけて、言った。



「貴方が居なきゃ、真っ暗だったよ。―——シオン』


 

 アネモネの花から取った名前と、そのまま付けたシオン。











―――――――――私の身体は、この下にある。


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