第4話 その名は、ますたー!
「最後は、アイリスタンが決めるんだ!」
太一は、1つ目のボールを高く投げた。外野にいるアイリスにパスしたのだ。そしてもう1つはいつでも投げられる態勢を整えていた。しかし、そのときアイリスはボーッとしていた。臭くって仕方ないのだ。
「あぁっ、いけない!」
アイリスはボールを大きく弾いてしまった。ボールを追いかけていくと、そこには大きな牛がいた。アイリスタンではない。雄牛だった。雄牛は、ボールの匂いを嗅いで、アイリスタンの生乳が入っていることに気付いたらしい。それで容器を舐めまわすのだが、付着していたスッポンの生き血が唾液で溶け、雄牛の喉を通った。
ーーモォー! ーー
雄叫びとも取れる大きな鳴き声が、牧場中に響き渡った。アイリスタンの生乳の匂いとスッポンの生き血の持つ興奮作用のある物質とが同時に雄牛を刺激したのだ。
ーーモォー! ーー
「いっ、いかん。旦那が興奮してしまった!」
旦那と書いて、『ますたー』と読む。雄牛の名前だ。旦那はこの牧場で最も凶暴な雄牛なのだ。場長は、畏怖の念を込めてこの名を贈った。旦那は、明日の朝には肉牛として出荷されることになっている。牧場で過ごす最後の1日だった。何も知らないアイリスが、ボールを取りに旦那に近付いていった。小走りする度に、おっぱいが揺れた。
ーーモ、モォー! ーー
旦那の興奮は頂点に達した。アイリスのおっぱいと一緒に揺れる、赤い血で染まったワンピースを見たからだ。巨躯の割に機敏に立ち上がると、前脚を掻いて突撃の構えをした。
「きゃっ、怖い!」
アイリスは気付いた。この牛は危険だと。だがそれは旦那が駆け出したあとだった。
「なっ、何よー!」
踵を返して逃げるアイリス。興奮から我を忘れてモォー追する旦那。
「ま、まずい!」
太一が叫ぶ。だが、どうすることも出来ない。そんなときだった。
「ハイヨー、シルバー!」
たかたんだ。その声に呼応して、1頭の馬が駆けて来た。たかたんの愛馬、シルバーだ。たかたんは素早くシルバーに跨ると、旦那を追って駆け出した。太一は便乗して同乗。たかたんの背中にしがみついた。だが、シルバーの脚力を以ってしても、到底間に合わない。アイリスは、大きな木の下に追い込まれてしまった。恐怖のせいか、アイリスのおっぱいは心なし元気がない。
「マッ、マスター、助けてー!」
勝者の余裕か、旦那は足を止めた。だが、鼻息は荒い。前脚を掻いて、いつでも突撃できる準備を整えていることにかわりはなかった。もう間に合わない。誰もがそう思ったそのときだった。シルバーがアイリスと旦那の間を横切った。そして、たかたんの背中にいた太一がダイブ。旦那の首筋にストライク。そのまましがみついた。旦那は、それを振り払おうと暴れ出す。太一はしがみついたまま微動だにしない。
「アイリスさん、水だ。水をかけるんだ!」
たかたんがアイリスに向かって叫んだ。直ぐ近くに水道があった。アイリスはそこへ駆け寄り、ホースを旦那に向け、蛇口を捻った。キュッキュッと音がする度に、アイリスのおっぱいが揺れた。ホースから放たれた水が、旦那の身体を優しく冷やした。落ち着きを取り戻し我にかえった旦那は、大人しくなった。
「じゃあ、アイリスタンというのは乳牛のことだったんだ」
「だったら最初からそう言ってくれればいいのに!」
シャワーを済ませ、ブラジャーだけでなく全身を着替えたアイリスが、そのおっぱいを太一の上に置いた。乳休めだ。誤解が解け、さっぱりしての乳休めは、アイリスにとって最高だった。太一にとっても最高だった。
「アイリスばっかり、ずるいよー!」
「今日くらい、独占させてもらうんだから!」
一呼吸入り落ち着いた太一たち御一行やたかたんたちに、場長からの差し入れがあった。BBQ用の牛肉だ。何を隠そう、解体されたばかりの旦那だった。
「みんな、すまないねぇ! 旦那が急に暴れてしまって!」
こうして、太一たちの高原リゾートは、ド派手に幕を開けた。
夏だー! 山だー! すっぽんぽんだー! 世界三大〇〇 @yuutakunn0031
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