第3話 ドッジボール大会

「どうして誤解を解いてくれないんですか!」

「誤解してると決まったわけじゃないだろう」

「どう見たって、誤解してるでしょう!」


 激怒しているのはアイリスだった。太一はそれも楽しんでいた。


「こうなったら、全員瞬殺するわ!」


 全く取り合ってくれない太一に対してのイライラをぶつけるように、アイリスは本気でやっつけようと熱りたっていた。


「ぶっちゃけ、そう簡単にはいかないんじゃない!」

「そうよ、2組を同時に相手するんだもの。大変よ!」

「序盤は様子を見た方が良いかもしれませんね」

「持久力勝負の方が分があると思うな」

「ま、警戒するに越したことはないっしょ!」

「そんなことないよ。ババンッとやっつけちゃえば良いのよ」


 普段はバラバラに相手をしているたかたんたちと卑裏悪たち。各個撃破すれば容易い相手ではある。だが、まとめて相手にするのははじめてのことだ。どんな力を秘めているかは未知数だった。意外と慎重なあおいたちだった。アイリスとまりえを除いては。


「厄介なのは、士気の高いアイリスだな」

「彼女がムキになるのも無理はないですよ」

「そうだな。この闘いは、アイリスタンを太一くんから解放するのが目的だ!」

「そうですとも。決してアイリスタンのお味を楽しむためではありません!」


 誤解したままのたかたんたちは、入念に作戦を練った。


「そんな。いつもは正々堂々としているたかたんさんが……。」

「闘いは非情さ。それほどヤツらは手強いってことを、忘れるな!」

「わっ、分かりました。止むを得ませんね……。」


 名付けて『スッポンの生き血作戦』だ。ボール型の器具の周りをスッポンの生き血で生臭くして、相手の戦意を削ぐというものだ。至って平凡な作戦だった。



 ドッジボール大会のルールは簡単。ボールは2個使用し、外野から内野への移動は認めないというもの。20分程で決着をつけるための措置だった。互いに1個のボールを抱えた状態からの試合開始となった。


 序盤、早くも動きがあった。卑裏悪の一般人が投げたボールには、既にスッポンの生き血がベッタリ付いていた。ビーチバレーボール大会でチームを組んで以来、卑裏悪の一般人はアイリスのことを忘れたことはなかった。颯爽と駆け寄り、球を拾っては大きくジャンプし、相手コートにカラフルなバレーボールを叩き込んだアイリス。その度に大きく揺れたアイリスのおっぱい。今では良い思い出という名のおかずだ。あのとき、1度でもハイタッチをしていれば、この男がここまで非情な作戦に加担することはなかったのかもしれない。だが、アイリスをどうしても救いたい卑裏悪の一般人は、涙を飲んで、1撃を喰らわせた。


「なっ、何よこれ! くっさい!」


 アイリスはおっぱいと2つの腕で抱え込むようにして、余裕でキャッチしたのだが、その分、スッポンの生き血がベッタリと付いてしまった。おしゃれな白いワンピースが、ボールを受けたおっぱいの下の部分だけ、赤く染まってしまった。アイリスは、早速の戦意喪失となった。


「もぅー! こんなんじゃ闘えないわ……。」

(アイリスタンごめんよ。だがこれは、君を救うための手段なんだ……。)


 すごすごと外野へと引っ込むアイリスだった。勝負のその後は一進一退の攻防が続き、気が付けば内野には太一とたかたんの1人ずつになっていた。そして、ボールは2つとも太一が支配していた。長い闘いが、ようやく終わろうとしていた。

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