あの日

よる

No.1

「泣ける!って帯に書かれてたり、口コミで言われている小説って大抵泣けないんだよね。なんでだろう。」

「分かる。そのくせ、マイナーな泣くとか全然言われてない本で泣いちゃうの。」

「俺は本で泣いたことないかなあ。冷徹人間だからさ。」

「そんなことないよ。あなたは誰よりも、世界中の誰よりも優しい。」

「それはそれは。ありがとうございます。」



最近、私がふとあなたをみるといつもスマホかパソコンかテレビを見ている。

つまらないなあ、と思う。あの頃はもっと二人ともお互い好かれるように、ちょっとだけ自分を取り繕って、私達を包む空気はとても温かかった。より好かれようとする時間でさえ、楽しかった。

あなたがスマホを見ているとき私がつけた番組で特集が組まれていた。

最近流行っているあの人気の映画の制作秘話とか、その監督への取材とか。

「期待の新人!」「泣ける!」「面白い!」「見なきゃ損!」

私はあまり期待をせずに、彼に尋ねた。

「ねえ、あの流行りの映画見に行く?」

「ん?」

彼は話を聞いていなかったらしく、私にもう一度繰り返させた。

「ああ、見に行こうか。」

「え。」

「え?久しぶりに、二人で見に行こう。」

「いつがいいかな。」

「今度の日曜は?」

「いいよ。」


映画を見ていた彼は突然ボロボロ泣き出した。

泣けるって言われている小説で泣かないと自分で言っていた彼が、隣で泣いていて、私は驚いた。

映画が終わって、

「泣いてたの?」

と尋ねると、彼はなんでもなさそうに

「そうだよ」

と言った。

「ちなみに今あなたが思い出しているであろうあの日ね、俺嘘ついたの。俺達がであった結構初期の頃、言ったんですよ。あなたが。」

「え?」

「泣けるって書いてある本は泣けないって。あの日は付き合いたてで、共通点をできるだけ多く作りたくて、嘘ついたの。」

「泣けるって書いてある本泣く?」

「もう、ぼろぼろ。今日みたいにね。幻滅したならごめんね。」

彼は笑ってそう言った。私が幻滅しないってこと、わかってるのに。

ある程度一緒にいるんだよ。かっこ悪いとこももっと見たいよ。


二人とも取り繕っていたあの頃もなんだかんだ幸せで、楽しかったけれど、

それよりも取り繕わなくてもいいくらい相手を信用して、自分の素をだせる今の方が私は、何倍も幸せで、嬉しいなあ



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの日 よる @September_star

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る