後日談②
「あら、お出かけですか勇者様? 珍しいですね」
アイザックの寝顔を拝みに家へ押しかけてきたパトリシアは、いつもは寝ている午前中にも関わらず外出支度をするアイザックに驚く。
「うん、ちょっとね。パティも行く?」
「ひえっ!? まま、まさか。ででででデートのお誘い……!?」
興奮のあまり頭から火を出すパトリシアに、アイザックは少し困ったように微笑んだ。
「母さんの命日でね、お墓参りするんだ」
「……ぜひ、ご一緒させてください」
「ありがとう。父さんと母さんにパティのこと紹介したかったからうれしいよ」
「ひえっ!?」
「デートはまた日を改めて誘うね」
「ひえぇぇっ!?」
アイザックはいつになく積極的な態度をとり、キャパオーバーしたパトリシアが煙を出し始める。
センチメンタルな気分を隠すには、必要以上の効果だった。
墓地を前にルーファスと合流する頃になって、ようやくパトリシアの発火がおさまる。
「おはよう、ルーくん。やっぱり王様は来られなかったすか」
「はよ。仕事が終わらず残念がってたぜ。んで、これを持ってけとよ」
ルーファスは立派な花束を掲げると、案内するように促す。
アイザックの両親の墓は、ごく一般的なこじんまりとしたものだった。
アルフとウェディ。墓石に刻まれた二つの名に、パトリシアは目を丸くする。
「ウェディ様……? まさか、失踪した風の四天王の……!」
「あー。前大魔王様に次ぐ実力者と言われてたらしいすね」
「こんなとこにいたのか……」
「ルーくん?」
静かながら大きな衝撃を受けているルーファスの口調に、アイザックが呼びかける。
「お前の母親はオレの命の恩人だ。オレが5歳の時に魔王ぶっ殺したってウワサあんだろ? あれ、通りすがりのウェディさんがやったんだよ」
「マジすか。その頃から無茶苦茶だな母さん……」
ルーファスは丁寧に花を供えると、手を組み祈る。
「この人がいなきゃ、オレはあの時死んでた。その後も気にかけてくれたから、親父に言われるがまま魔王なんか目指すのもやめられた」
「ちなみにどんな話したんすか?」
「キレイな顔してるんだからそっち生かす方向で頑張りなさい、とか言われたな。君なら魔王も人もたぶらかせる! ってな」
「無茶苦茶だな母さん……」
聞けば、ルーファスがミスティリオに渡ったのもウェディの助けがあったらしい。ようやくお礼が言えたとスッキリした表情で笑った。
「さて、エルドレッドの様子も気になるし先に帰るかな。お二人さんの邪魔しちゃいけねぇしな」
「なっ、ルーファス様っ! そんなお気遣い最高ですわ……!」
「本音だだ漏れじゃねぇか」
「お墓参りありがとう、ルー君。王様にもよろしくお伝え下さい」
ルーファスが去ると、アイザックは持ってきた花を備えて手を合わせる。パトリシアも隣で手を合わせながら、時々横を盗み見て、真剣な表情に見惚れていた。
「よし、大魔王討伐の報告もできたし俺たちも帰ろうか」
「はい! 勇者様!」
「あ、大事なこと忘れてた。父さん母さん、紹介するね。こちら魔王のパトリシア。恋人で結婚も考え--」
パトリシアから過去一番の熱があふれ出し、ごうごうと大きな炎が燃え上がる。
翌日のミスティリオの新聞は、『死者の怒り!? 突如として墓地に上がった火柱!!』といった見出しが一面をかざったらしい。
記事を見たエルドレッドは魔王と人間の不和の原因になりかねない内容に卒倒し、大慌てで訂正記事を出させたとか……。
勇者様は燃費がお悪い 餅々寿甘 @kotobuki-amai
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