エピローグ
あの花火大会の日から、今日でちょうど、
五年目だ。あの日あったことは、今となってはよく覚えていないけれど、指輪はいつでもお守り替わりに付けている。約束、覚えていてくれてるかな――
実は、ペンダントが入っていた箱に添えられていたカードに、
*五年後に秘密基地でまた一緒に花火見ような*
と書いてあったのだ。偶然にも、今日は花火大会の日。午後六時から打ち上げ開始だ。もう彼はいないけれど、何だかあの場所に行きたくなった。私は浜辺まで歩いていく。ラッキー。今日は星屑山への道が出てる――!
そして、いつの間にか秘密基地に吸い寄せられるかのように、私は走っていた。あの頃、彼とそうしたように。潮風が私の髪をすくい上げる。なんだか楽しい。こんな気持ち、久しぶりだ。
星屑山を登り、木々の間を駆け抜け、秘密基地へと向かう。持ってきた鍵を扉に差し込み、そっと扉を開ける。
――そこには、あの時と変わらない景色が広がっていた。部屋の所々に、埃が被っているけれど。私はふと、腕時計に目をやる。
『五時三十分、早く着きすぎちゃったなー』
なんて思いながら、来る筈のない彼を想いながら、窓を開けてぼーっと外を眺める。それから、どのくらいの時間が過ぎただろうか……。ガチャリ、突然扉が開いた。
「わりぃ、待たせたなー!」
いつか聞いたような台詞だ。えっ、まさか――。私は高鳴る気持ちを抑え、後ろを振り返った。入口にはマサが立っていた。くせっ毛の髪で、あの頃よりずっと身長が伸びていて、大人びたマサが立っていたのだ。
「えっ……!?」
私の目から涙が溢れた。
「な、なんで、マサがここに居るの……?」
私は動揺を隠せなかった。何故なら、彼は五年前のあの夏の日私を庇って死んでしまった筈だから――。
「おいおい、約束しただろ?五年前に」
と言ってマサは私にハンカチを渡し、私の頭を優しく撫でながらこう語った。
「実はさ、俺、あの後、海外まで運ばれちまってさ。持病も悪化して、正直言って、もう死んじまっても仕方ないと思ったんだ。でもさ、俺、ふとアオとした約束思い出してさ。
*五年後に秘密基地でまた一緒に花火を見ような*
ってさ。んで、俺、頑張れたんだ。約束は守んないとだしな?なんとか手術も成功して、療養生活ってことで、海外で暮らしててさ。つい半年前くらいにこの街に戻ってきたんだ」
「なんで?海外に行ってたこと、私全然知らなかったよ……?」
「当たり前だろ?シグとメイが学年の皆にお願いしたからだよ。アオの為にも、マサの話題は極力避けてくれ、ってな?皆も、あの二人のお願いだから素直に受け入れてさ。それ以上に、皆でアオの心のケアをしよう、ってなったらしいぜ?」
知らなかった。彼らがついていた優しい嘘を私は今日まで。彼は淡々と語ったが、きっと彼の苦悩は凄まじいものだったと思う。そう思うと、私はいたたまれなくなり、そっとマサを抱きしめた。彼は驚いた様子だったけれどすぐに私の後ろに手を回して、優しく抱きしめてくれた。
「マサ、ありがとう。約束、ちゃんと覚えててくれてて。返事、今するね。私もマサのこと大好き。愛してるよ、マサ――」
そして、私はそっと彼にキスをした。
空に架かっていた虹は、闇に飲まれていつの間にか見えなくなってしまったが、ゆっくりと上がってきた花火は二人を照らすかのように、虹色の大きな花を夜空に咲かせた――。
アルカンシエルの向こうには まろん @ayamaron
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