第10話 解決することには犠牲がつきものだろう
「おい!そんな所でなにやってるんだぁ!」
シグマはスライムに取り込まれているデネブに向かって大声で呼びかける。
「見たらわかるでしょ!スライムに捕まっちゃったのよ!」
デネブも大声で返事をする。
中にいても声が聞こえてくるって、スライムのからだって結構通音性がいいんだな。
シグマはそんなことを思いながら腰の剣に手を伸ばす。
「待つでしゅ」
その手はアルによって止められる。
「スライムは見るからに外部のものを吸収する性質を持ってるでしゅ!剣で切ったところでご主人様も吸収されてしまうのは目に見えてるでしゅ!」
確かに巨大スライムは前進する度に、大通り沿いにある建物をその体へと吸収して言っている。
透明な体の中で大きな建物がゆらゆらと動いているのがよく見える。
「でも、どうすればいいんだ?」
「それならば私にお任せ下さい」
「おお!?ま、マリーさん!?」
突然、どこからともなくマリーがシグマの真後ろに現れた。
「ど、どこから来たんですか!?」
「それはもちろんギルドからです。ちなみに皆さんに身につけて頂いている宝石には転移場所設定が組み込まれているので、ギルド権限を使える私はいつでも皆さんの近くに転移することが出来るのです、えっへん」
「突然現れてドヤならないでくださいよ。それより、マリーさんに任せるって……?」
シグマがそう聞くと、マリーは指をパキパキと鳴らしながら巨大スライムを見上げた。
「こちらの魔物は街の破壊をしています。これはもう依頼程度の度合いで解決できる問題ではありません。この街の存続に関わりますから」
マリーはそう言いながら、右手に出現させた魔方陣を出現させた。
「ご主人様、マリー様は意外とすごい人かもしれないでしゅ」
アルがシグマに耳打ちをする。
「どうしてだ?」
「あの魔法陣は遠距離通信会話魔法でしゅ。通称『通話』と呼ばれているあの魔法は上級魔法職でも使える人は少ないと言われてるでしゅ」
「そ、そうなのか……」
いまいちピンと来ないが、ギルドの幹部を務めるだけあってすごい人なのは間違いないらしい。
そのすごい人であるマリーは、魔法陣に向かって大声で言う。
「今です!この街の防衛のために用意していた爆弾を全て巨大スライムに向かって投下してください!」
『了解しました!』
魔方陣の向こう側の声が了解を告げたと同時に、ギルドのある方向から無数の小型飛行機が飛んでくるのが見えた。
「ベガさん、少しお手伝いしていただけますか?」
「……?」
ベガは首をかしげだが、マリーは若干強引にその手を引いてスライムの前に立つ。
「スライムの動きを数秒の間でいいので止めていただきたいのです、出来ますか?」
「……」
ベガは相変わらず無言だったが、今度はしっかりと頷いて目の前のスライムに目を向ける。
そして胸に手を当てて目を閉じる。
「エルーラ・トルーレ・テラアイス・エイジ!」
そう唱え、両手を地面に叩きつけるように振り下ろす。
すると、ベガの触れた場所から巨大スライムに向かっての地面がバリバリという音を立てながら凍っていく。
そして、液体系の魔物であるスライムは凍りやすい。
凍った地面を踏んだ巨大スライムは見る見るうちに下半分が凍って動けなくなってしまった。
「全身を凍らせるのはさすがに無理、これが限界」
「いえいえ、それで十分です。あとはギルドの力にお任せ下さい」
申し訳なさそうにしているベガに対して軽くお礼を言いながら、マリーは再度魔方陣に向かって話しかける。
「準備は出来ましたか?」
『はい!いつでも投下可能です!』
「こちらも準備が整いました。今すぐに巨大スライムの頭部への投下を開始してください」
『ラジャー!』
通話が切れると、それまで周りをグルグルと旋回していた小型飛行機達が向きを揃えていっせいにスライムに向かって飛び始めた。
そして、スライムの上空で赤い塊を落としていく。
その正体は―――――――。
「爆弾です、軽く2000個は超えているでしょう」
「あれに引火させることが出来れば、スライムをやっつけることが出来るということですか」
「そのとおりです、シグマさん。そしてデネブさんの来ているあの装備は体に火を纏うことができる装備でしたよね?」
「そうですけど……身動きを取れないデネブがどうやって爆弾全てに引火させるんですか」
「その点はご安心を。あの爆弾は周囲の温度が一定以上になれば爆発するようになっているタイプの爆弾ですので、デネブさんが火を纏えば、液体性であるスライムの温度はすぐに起爆温度に達しますから」
「そういうことですか、ならデネブに頼みましょう」
「大丈夫よー!今の話、全部聞こえたから!」
デネブはそう言うと歯を食いしばり始めた。
コートの能力を使うのには力を込める必要がある。
身動きが取れない以上、最も力を入れやすいのはこの方法だろう。
それよりも――――。
「あれ?なにか間違っている気がするんだが……?」
シグマの頭の中にはモヤモヤとした疑問が浮かんでいた。
何か、今のままではいけないような気がする。
だが、そんなことはお構い無しに、デネブの纏った火に熱されたスライムの体は沸騰し始め、ぶくぶくと泡を出し始めた。
正直気持ち悪い……。
「分かったぞ!まて、デネブ!それ以上は―――!」
シグマが止めようとデネブに声をかけた瞬間、スライムの内部の温度が起爆温度に達し、2000個以上の爆弾がいっせいに爆発した。
ドォォォン!ドォォン!ドカァァァァァン!
こうして巨大スライムは退治されたのだった。
シグマが思った通り、爆発によって破裂した巨大スライムのベトベトは街中に飛び散り、その後の掃除が大変なことになった。
そしてスライムによって飲み込まれた建物も全て粉々、飛び散ったベトベトで汚れた商品、食材は廃棄処分。
スライムによる被害よりも、爆発による被害の方が酷かったという噂も立つほどに――――。
そしてシグマたち4人はと言うと。
「ベトベトが飛び散ったせいで着てた防具が全部ベトベトになっちゃって、新しい防具と両方の支払いをしないといけなくなるなんて……」
相変わらずデネブは頭を抱えていた。
「残り10ゴルでどうやって旅をしろって言うのよぉ……」
「そんな皆さんにいいお知らせがあります」
またどこからともなく現れたマリーは、脇に抱えていた資料ファイルを開く。
「ここからそう遠くない場所にある村に、とある噂が流れているのです」
「噂……ってなんか怪しくないですか?」
「いえいえ、これはその村に伝わる本当の噂ですから、噂の存在は間違いないです。ですが、それが本当かどうかは確かめることが出来ずにいます」
「そんか難しいことなんですか?」
シグマがそう聞くとマリーは眉間にシワを寄せた。
「いいえ、別に」
「べ、別にって……じゃあなんでそんな顔してるんですか」
「深刻じゃないけれど深刻そうに見える顔というのにチャレンジしてみました」
「他所でやってください」
マリーはすみませんと一礼してから、ですが……と続けた。
「この依頼を達成すると報酬がいっぱい貰えますよ」
「い、いっぱい……ってどれくらいですか?」
「それはもういっぱいですよ」
その言葉を聞いたデネブはマリーから資料のページをひったくるように取って、右手を握りしめた。
「よーし!待ってなさい、大金ちゃん!ふんっ」
「鼻息が荒いぞ?」
「ほらほら!3人も急ぐわよ!私たちが空腹で倒れるのが先か、大金が手に入るが先か!これは自分との勝負よ!」
「はいはい……。ほら、ベガもアルも行くぞ〜。デネブが怒ったら怖そうだからな〜」
「いくでしゅ!」
「……Zzz」
ハジーマの街から去っていく4つの背中を眺めながら、マリーは思った。
こいつらちょろい……と。
「上手く行きましたよ、あとは彼らの実力が伴っていることを願うだけ……ですね」
『そうだな、ご苦労だった。引き続き奴らの見張りを頼む』プツンッ
魔法陣が消滅した後、マリーは大きなため息をひとつつく。
「彼らはちょろい。けれど、敵に回すと厄介です。気をつけて行動することにしましょう」
そう言って彼女はその場から消えた。
「おっと、服を転送するのを忘れました。転送魔法にもなかなか慣れないものですね」
今度は服をちゃんと転送対象に入れて、そして消えた。
勇者サマと3人の使い魔 プル・メープル @PURUMEPURU
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