Epsode02【集結】

 1年Ⅽ組の自己紹介の中で「尊敬するのは父親です。そして、私は剣道部に入部し、全国制覇します。」と強い口調で明言し、渋谷を驚愕させた彼女の名は

小礒柚葉。

 彼女は剣道一家で生まれ育ち、父親の鉄平は剣道教士八段の有段者であり「風神館 小礒道場」の三代目館長を務めている。その家庭環境から彼女も四歳から剣道を持ち始めると父親から直々に毎日厳しい稽古を受けた。勿論、小中在学時は剣道部に入部し、日々の朝練を欠かさずに部活の練習では誰よりも貪欲に稽古へ取り組み、帰宅後には父と稽古するのが日課となっていた。いわゆる「剣道バカ」である。当初、彼女はスポーツ推薦で宮崎県にある剣道強豪校の神獏女子高校に入学し、今よりもっと厳しい環境で剣道の道を極めようと考えていたが小中学校、同じく通っていた親友である芦崎芽衣より一緒に私立美水女子学園へ入学するよう強く迫られ、致し方無く了解したのだ。

 勿論、剣道有段者の芦崎と小礒は私立美水女子学園の剣道部に入部し学園関係者と容赦ない世論からの悪いイメージを払拭しようと決意していた。


 渋谷はそんな小礒の自己紹介においても見て取れる固い覚悟、使命感に剣道部の顧問として彼女の人柄に興味を抱き、ホームルームは60分予定されていたが今にでも彼女に根掘り葉掘り様々なことを聞き出したくて仕方がなかったが教諭という立場として淡々とホームルームで行うスケジュールを進行した。

 二十人いるⅭ組全員の自己紹介を終えた後は簡単な小テストが行われ、彼は先頭に座る生徒へ用紙を配り終え、教室全体を見渡せるように最後部へ移動した。ホームルームの終了を知らせるチャイムが鳴るまで、彼の頭の中では小礒を中心とした常勝軍団を作り“剣道部全国制覇”という計画を練っていたが今の剣道部に所属する部員は誰もおらず実質、部として機能していなかった。現実問題、剣道の団体戦を行うには最低でも五人以上の部員が所属しなければならない。それと同時に常勝軍団を作るためには剣道強豪校の強者たちと互角またはそれ以上の実力者が必要となる。

 全国制覇を掲げるよりもまずは剣道部の核となる小礒の実力把握と部員数の確保が最優先課題であるが今後、直面する課題は数え切れないほど沢山ある。

 彼はそんな課題を解決していく術を考えている内にホームルームの終了を知らせるチャイムが鳴ると最後部から急いで教団の前に行き、「答案用紙は裏返しにして、自身の席に置いといてください。あとで回収します。今日の日程は以上です、お疲れ様でした。」と号令する。


 「お疲れ様でした。」と生徒たちがⅭ組の教室から退出していく中、渋谷は小礒に話し掛けようとした瞬間、「柚葉!」Ⅽ組の教室に入室してくる一人の生徒に邪魔される。


――その生徒とは、芦崎芽衣だ。


 彼女に邪魔され小礒とのコミュニケーションが断たれた渋谷は黙々とⅭ組生徒たちの答案用紙を回収するしかなかった。

 小礒は「今日もいつも通り、柚葉の道場で稽古するでしょ。」という芦崎の誘いに対して「愚問だね」と言い放ち、教室を退出しようとするがこそこそと二人の話しを聞いていた渋谷に「ちょっと、待ったぁぁ!」と足を止められる。

 不意な大声に驚く二人に渋谷は「小礒柚葉さんに芦崎芽衣さん。二人の稽古に僕も混ぜてくれないかな。」と提案するのに対し、小礒が即答で「何言ってるんですか。渋谷先生は私たちを全国王者に導くためにここに来たんですよね。私たちの顧問は渋谷先生です。今後とも、ご指導のほどよろしくお願いしますね。」と低姿勢で謙虚な態度を示した彼女に「よろしく!」と返答すると共に握手を交わす。

 とりあえず剣道部を希望する二人集まり、ようやく部を再開することができたが次なる問題が彼に襲い掛かるのである。

 



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私立美水女子学園剣道部 @waraji

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