Epsode01【救世主!?】

 春風が香る卯月の上旬。


 私立美水女子学園剣道部で起きたあの悍ましい問題発覚から半年が経過し、世間を騒がせた日本国内で指折りのお嬢様校は無事に新学期を迎えた。

 そして、理事長である宇喜多秀樹の画策により田舎の高校から渋谷雍二という体育教諭が着任し剣道部の顧問と一年Ⅽ組の主担任を任されている。


 ――よーし! 頑張るぞ!


 意気込む彼は、四十前半のおじさんではあるが剣道部の腕前は全日本剣道連盟七段を持つ超一流の剣士。年齢不相応な無邪気さと常識にとらわれない考え方で後先を考えずに行動し、古くから格式ある着任式と入学式の着任スピーチでは、面白くないトークとギャグを連呼し生徒と教諭、保護者を困惑させた。

 そんなこんなで冷や冷やしたイベントが終わり、教諭たちは職員室に戻ると早速、彼の着任式における非常識な行動を話題に挙げ、批判する教諭と肯定する教諭とでひとつの輪となり無駄話をしていたが、彼は無駄話には興味がなく来席用の椅子に座り  黙々と一年生全員の経歴を真剣に見ている中、ひとりの女性教諭が彼の傍へとゆっくりと近づき、お化けみたいな声で「何を見てるんですか」と唐突に話しかける。

 不意を突かれた彼は席を立ち上がり面食らった表情を浮かべ、話しかけてきた彼女に見るや否や「クソババア、何すんだよ。」と暴言を放つが、「なんですって。渋谷さんも人の批判できないほどお年を召されてますよね。理事長から聞きましたけど無類のアイドル好きみたいで。それに前の職場では三十歳以上の女性は一律、ババア呼ばわりしていたみたいですね。」と勝気な彼女に言い負かされてしまう。

 彼はふと、疑問に思いながら彼女に問う。

「なんで。前の職場の事を知っているの。ここに来るまでは、理事長にしか経歴は教えてないはずだけど。」

 その真相はこうだ。彼女の姉は渋谷が前に勤めていた職場の教諭であり彼と同様、剣道部の副顧問を受け持っていた。剣道の熟練度はまだ発展途上ではあったが彼とは気が合い、腹を割って話す間柄であった。


――もしかして、杉沢 円さん!?


そう、彼の行動傾向を全て把握している気軽に声を掛けてきたクソババアの正体は前の職場で師弟関係の間柄であった副顧問の妹だ。

彼女は、真相知った渋谷へ追い打ちを掛けるかのように「人を見た目で判断するなんて悪い癖ですよ。それに前の職場では許されましたけど、この学園は古くから歴史を持つ由緒正しき学園ですので生徒保護者とトラブルは絶対ダメですからね。」と釘を打つと共に彼の対面に座り、不服そうな面を見ながら嫌々に「はい、かわりました…… 失言には気をつけます。」と納得させた。

また、彼との会話において無言の空間を作るまいと円は「渋谷さんって、アイドル好きだから女子限定の学園に着任できて、相当嬉しいんじゃないですか。某プロデューサーみたいにアイドルユニット作ってくださいよ。私、応援しますから。」としょうもない戯言に対して彼の反応は真面目だ。

「馬鹿を言うんじゃない。私は無類のアイドル好きではあるが、そんな遊興している暇はないのだ。理事長の意向に従い、剣道部の立て直しと部を全国制覇させることで手一杯だ」と一蹴するが、剣道部の立て直しをするにあたり部の内部事情を知りたいはずだ。

 円は、学園一の情報通だ。教諭、生徒たちのあらゆる噂をいち早く入手し、信憑性の高い相手が不利になるほどの弱みを握っていた。どうしてもあらゆる剣道部の情報を知りたい渋谷にとって絶好の機会であったため、透かさずに彼女へ問いかけた。


――私が着任する前の剣道部で何が起きたのですか……


「それは……」と彼女が口を開いた途端、時限を知らせるチャイムが鳴る。まるで、恋人同士が家などでイチャつき、一番盛り上げる時にインターホンを鳴らされ邪魔されたようなものだ。

 渋谷は一年C組の主担任を任されていた為、サボることができなく強制的に教室へ行かざるを得なかった。嫌々、職員室を退出し「なんだよ。図ったようなタイミングでチャイムがなりやがって」とぶつくさ言いながら速足で一年C組の教室へ向い、教室のドアを開け、「うぃーす」と軽い感じで入室する。それに対し、日本国内おける三大お嬢様校である私立美水女子学園の生徒たちは上品さがあり、「ごきげんよう」と渋谷へと挨拶を返す。


 田舎の公立高校勤務が長った彼にとって、とても新鮮であった。前の高校では一部生徒の遅刻は当たり前で挨拶をしても返さない、話を聞かない生徒たちで、とても不愉快な日々を過ごしていたからだ。

 渋谷は日本国内屈指のお嬢様校を誇る私立美水女子学園生徒の格式の高さに脱帽すると共にこれから毎日、気持ちよく過ごせるという安心感が生まれていた。


 今日は、入学式。時間割はホームルームのみが割り当てられている。


 渋谷は教団の前に立ち、改めて自己紹介を行う。「渋谷雍二です。着任式でも、話した通り私は、常識に捉われる人は嫌いです。何故なら、その人たちは現状維持に満足し、成長しないからです。また、その人たちは目新しいものには興味がなく過去の経験に基づいたルールが染みつき、物事を柔軟に考えられないほど頭が固くなっているからです。常識に捉われて行動できないくらいなら、自分から凝り固まっている常識を新たに上書きしてやる気持ちで学園の一教諭を全うする所存です。」と着任式では見せなかった熱い一面を出す中、彼の熱い力説に感化される生徒が一人いた。

自己紹介の締めである「宜しくお願い致します。」を言い終え、続いて一年C組生徒の自己紹介が行われた。自己紹介は語順音順で行われ大半の生徒はテンプレート通りに出身中学校、趣味を話して終わるが一人の生徒だけは私立美水女子学園に入学した目的、在学時の最終目標、尊敬する人を明確に話した。


 そんなある生徒とは……


 

 

 


 

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