第1話 お箸デビュー
ボクが4歳か5歳の時のとある日、両親と弟と一緒に市役所に行った時のことだった。両親が何やら用事を済ませている間、ボクと弟は市役所の中やその周りで鬼ごっことかで遊んで暇をつぶしていた。暫く遊んでいて疲れた後、ボクは自動開閉ドアが気になった。その時頭にあったのは、挟まれてみたい、だった。きっと程よく圧迫感があって気持ちいいんだろうな、と思っていた。この気持ちは市役所の自動開閉ドアだけに抱いていたわけではなかった。ただ、どこの建物の自動開閉ドアでも閉まるまで挟まれようと待っていたのだけれど、ちょっと頭がかゆくなって無意識にかいてしまったり、じっとすることができなかったのですぐに動いてしまい、その度に自動開閉ドアは反応して一向に閉まろうとしなかった。ところがその市役所の自動開閉ドアは感知が鈍く、少し動くくらいなら反応はしなかったので、これならいける、と思い、両手の指を前に突き出してドアが閉まるのを待った。すると、見事にドアは閉まっていき、ボクの指を挟んだ。直前までの快楽が待っているという予想は遥かに外れ、力強く挟んでいったので指に激痛が走った。とっさに指を引き抜き、手の状態を確認すると指のところどころから血が滲んでいた。その時の記憶はあまり残っていないけれどきっと泣いていたに違いない。
その次の日の夜、近々幼稚園に入園するということで、お箸を持てるようにならなければならないのでその為の練習をするということで練習用の指の補助がついたお箸を両親が買ってきた。そこからが地獄だった。昨日の今日ということで指の傷もまだ新しく、痛みも当然癒えていない状態で指にまとわりつくものをつけるのは恐怖でしかなかった。ボクは改めて自分のしたことに対し、強い後悔と反省を覚えた。再び襲う激痛に悶えながら初めて持っていたお箸の手は右の方だった。無論、それまでごはんの時に持っていたスプーンとフォークは後から母に聞いたら左手で持っていたそうなのだが右に矯正したかったのだという。しかし、時が経つにつれていつの間にか左でお箸を持っていた。当然、スプーンやフォークなども変わらず左手で持っていた。
家族全員が右利きだったのにボクはどうやって左手で食事用の道具を持てるようになったのだろう。
左利きのボク navi @navi2011
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。左利きのボクの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
とある女子大生の日記最新/志鷹 志紀
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 5話
近況完全網羅備忘録最新/詩川
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 18話
コンナ音楽堂 ~古今東西アルバム探訪~最新/真野魚尾
★62 エッセイ・ノンフィクション 連載中 89話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます