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@banana_ore

第1話 山崎秀明という男

「よって、この方法を用いることにより、ガラス文字を解読することができます。」


ある学者は2時間に渡る講義をこの言葉で締めくくった。この日、長年にわたって、未解読とされてきた文字が一つ、彼にやって解読されたのだ。


この学者の名前は、山崎秀明。31歳、独身。東京都内のとある私立大学で教鞭をとっている。言語学の世界的権威である彼は、難解と言われていたガラス文字を、数少ない資料から、たったの1年半で解読してみせた。


秀明は、講義が終わった後、講義が行われていた大学の廊下を歩き帰路についていた。すると、後ろから一人の男が近づいてきた。


「すごいなぁ、相変わらず。世界のあらゆる天才が解読できなかった文字を、たった一年半で...」


そう言って、秀明に近づく男性は、秀明の同僚の川本だ。


「解読で必要なのは、コミュニケーションの能力だよ。言語はコミュニケーションのために生まれ、文字は誰かに伝えるために生まれる。解読するにあたって、当時の人々が、どういう時代背景で...」

「ようするに、コミュニケーションのツールとして文字を捉えた訳ね?」

「そういうことだ。」


川本は聞き飽きたのか、秀明の言葉を途中で遮った。秀明という男は、昔から人とのコミュニケーションが得意であった。川本とは、高校からの仲であるが、高校からの10年以上、二人は喧嘩したことは一度だってない。秀明は、争い事を最も嫌い、喧嘩が起こりそうものなら、その火種を全て根絶やしてまわる。


「君がやった文字の解読の件は、明日の新聞の一面になるよ」

そう言いながら、川本は立ち去っていった。


秀明は薄ら笑いを浮かべていた。目立ちがり屋の彼にとって、これほど嬉しいことはないのである。


この日、秀明は、寄り道することなく、まっすぐ家に帰った。いつもより、豪華な夜ご飯を食べ、その日はいつもより早く眠りについた。





秀明が寝静まった、午後11時。

あらゆるテレビ局が、放送していたテレビを一時中断し、臨時ニュースを伝えた。



明くる日の午前6時半。秀明は目を覚ました。気分はとてもよかった。起きたら一目散にポストに向かい、新聞を手にする。昨日の自分の件が一面に出ていることを確認するためだ。


新聞を目にした秀明は数秒間止まった。


「...はぁ?」


この日の第一声は失望に近い、怒りに満ちた声だった。


「なんだよ、この一面。いつから都市伝説みたいなニュースを一面に取り上げるようになったんだよ、この新聞社は。」


そう言って、新聞をリビングの机に叩き捨てた。新聞の一面の大見出しにはこう書かれていた。


『アメリカNASA発表 火星人発見か』




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