第3話『最悪』

「ただいま」


「おかえり」


 葉月の声が返ってきた。


 居間にはソファに座り、アイスを食べながらテレビを見ている葉月がいた。


「あれ、部活は?」


 葉月は陸上部で、葉月の学校の陸上部はそれなりに強豪でいつもは遅くまで練習をしている。だから葉月がこの時間に家にいるのは珍しい。


「今日は顧問の先生が用事があって、自分がいない間に何かあったら困るからって休みになった」


 視線をテレビから離さずめんどくさそうに答える。


 兄に対してその態度はどうなのだろう。返答してくれるだけでもありがたいことかもしれないが。


 葉月はニュースを見ており、そのニュースでは男性の遺体が発見されたとかそんな事をやっていた。


 へー。あいつそんな名前だったのか。見た目と名前があってないな。どうでもいいけど。



 時間というものは経つのが速いものでもう寝る時間になった。


 今日、僕の家が豪邸になった。明日目が覚めたらどうなってるんだろう。ヤバいのが叶ってなければいいんだが。ほんと変な考えの奴が減ればいいのに。


 僕は祈りながら目を閉じた。


 

 次の日。

 

 目を覚ますと、この街に最悪が訪れていた。


 この街の人口が明らか減っていた。しかし死んだわけではなく、そもそも元からいなかったということになっていた。


 つまり誰かの夢で街の人の存在の多くを消したのだ。


 誰がこんな願いを……。


 くそくそくそくそくそ。こんな事を願う奴を殺し損ねた僕のミスだ。最悪だ最悪だ最悪だ。


 そして僕はより一層の気合を入れる。


 ふざけた願いを持った人間全部消してやる。消してみせ……る?


 そこで気付く。


 変な考えを持った奴を消したいという願い。


 だとしたら、これは僕の……。


 それに気づいた瞬間、僕は全てに気付く。


 友人が美少女と付き合うことになった(実現したら面白そうと思った)。


 友人が消えた(自慢話が鬱陶しいと感じ、目障りだと思った)


 家が豪邸になった(一人が好きで、必要以上干渉されたくないと思った)


 そうか。この世界で一番の最悪は僕だったのか。


 ははっ。


 何だよこれ。何が最悪が訪れただよ。くそ。笑えてくる。


 ははっ、ははははははははははははははははははあはははははははははあははははあはははははははははははははははははははははははははははあはははははははははあはははははははははははあははあははははははははははははあはははははあははははあはははあははははははあはは。


 広い静かな何もない部屋で、狂った笑い声が響いた。


 さあ、ヒーロー。世界を救うために、最悪を殺そう。



 そしてその日、少年が自殺したというニュースが報道された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヒーロー気取りの少年 那須梨 @sudumouri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る