恐怖の一夜

長束直弥

ヤツの目

 私は閉ざされた部屋の中で、布団にくるまっていた。

 両目はしっかりと見開いたまま、微昏い一点をただ凝乎じっと見つめたままで――。


 何時間もそうしていたように感じる。

 不安と恐怖が私を駆り立てる。


 ――こんな状態では、寝られるわけが無い。


 もうすぐヤツがやって来る。

 私にはそれが解る。

 外に出ることはできない。

 逃げ出すことはもうできない。


 窓を叩く音が激しさを増す。

 部屋の外で普段聞き慣れない音もする。

  

 ――ヤツが来たのか?


 ヤツはすぐそばまでやってきている。

 そしてヤツは、息を潜めている私を――。


 ヤツが私を見つめているように感じる。

 そんな私を冷笑うかのような不気味な目で――。


 恐怖が全身を包む。

 不安が極度に達する。


 息を殺し、ヤツがここを通り過ぎるのを祈るように待つ。

 何も起こらなければいいのだが……。





 どのくらい、そうしていただろう?

 漸く外が静かになった。

 ヤツは何処かへ行ったようだ。


 これで安心して眠ることができる。


 こうして、何十年かぶりにこの地方を襲った大型台風は、徐々に勢力を落とし、西日本を縦断した後、日本海上で温帯低気圧へと変わった。


 台風一過の空は、いつもよりも青く澄んでいた。

 

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恐怖の一夜 長束直弥 @nagatsuka708

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