もうひとつの「ウサギとカメ」
ある時、ウサギに歩みの鈍さを馬鹿にされたカメは、山のふもとまでかけっこの勝負を挑みました。
かけっこを始めると予想通りウサギはどんどん先へ行き、とうとうカメが見えなくなってしまいました。
ウサギは少しカメを待とうと余裕綽々で居眠りを始めます。
その間にカメは着実に歩みを進めていました。
そしてウサギが目を覚ますと、そこにはすでにゴールをしているカメの姿があったのです――という話は誰しもが知っているお話です。
そしてあまり知られてはいませんが、このお話にはいくつかの続きと裏の話があるのです。
❀ ❀ ❀
《まずは裏の話……というかあまり知られていない別verから》
ウサギとカメがかけっこの勝負をすることになった時、カメはウサギの走る道ではなく、すぐ傍の藪を走りたいと言い、ウサギもそれを了承しました。
いざ勝負が始まりウサギどれだけ走っても、なぜか常に近くの藪にカメがいるのです。走っても走っても引き離すことができません。
そしてようやくウサギがゴールにたどり着くと、そこにはすでにカメがゴールをしていたのです。
実はカメはスタート地点からゴールまで、自分の家族たちををコースである藪の中のいたるところに潜ませていたのです。
そして、ウサギが一緒にスタートしたと思い込んでいたのはカメの妻でしたが、見分けることができなかったのです。
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《では続きの話を》
かけっこでカメに負けたウサギは、仲間のウサギに馬鹿にされ、「恥をかかせた」として、ウサギの村を追い出されてしまいます。
追い出された先で負けウサギは、オオカミが村の子ウサギたちを狙っている事を知ります。
子ウサギを渡さなければ、オオカミが村を襲うであろうことは明白でした。
負けウサギはオオカミに会いに行き、こう願います。
「連れてきた子ウサギたちがオオカミの顔を怖がっているので、崖のところでちょっと後ろを向いていてくれないか」
そうして騙して岸壁にオオカミを誘い出した負けウサギは、オオカミに飛び蹴りを食らわせ崖から突き落とし、村のピンチを救うのでした。
知恵を使って撃退し名誉挽回した負けたウサギは村に温かく迎え入れました。
そして“勇敢はウサギ”として新しい英雄になりました。
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村に戻っり英雄となった、かつての負けウサギは、今度は相手を馬鹿にせず正面から立ち向かうことを誓います。
そう誓ったウサギは「もう一度レースをしよう」とカメに言いました。
カメも是非と応じてレースをすると、今度は正面から立ち向かったウサギが普通に勝ちました。
ですが勝ったウサギの横で、カメがにっこりと笑ったのです。
なぜ勝負に勝った自分ではなく負けた方が笑うのか、不思議に思ったウサギはカメに聞きます。
「なぜ負けたのに笑っているの?」
するとカメは笑顔でこう答えます。
「この間行ったのレースの時よりも、タイムが上がったんだ」
そんなカメの言葉に、自分の浅はかさと悔しさを覚えたウサギは、「もう一度レースをしよう」と持ち掛けます。
そんなウサギにカメは「今度は条件付きで」と応じます。
その条件とは公平性を期すために、レースのコースをそれぞれ陸と海に分けてタイムを競うものでした。
そしてウサギは陸を、カメは海とそれぞれの得意なコースで競い合います。
結果、同時にスタートした二人は同時にゴールし、それぞれの得意分野を認め合ったのです。
その後、陸が得意なウサギと、海や水が得意なカメは、お互いの長所を生かして助け合ったそうです。
Another fairy tale 睦月 琳 @428no
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