もうひとつの「長靴をはいた猫」

 むかしむかしあるところに、一匹の猫がいました。

 猫はいつもひとりぼっちでした。

 そんなある日、うちにおいでと言ってくれる人間がいました。

 その人間は、とても貧しい粉挽き職人でした。

 貧しいながらも、心優しくとても礼儀正しい人でした。

 粉挽き職人には三人の息子がいましたが、猫を養う余裕は無いと言われました。

 それでも息子のうち三男だけは、少しだけ猫に優しかったような気がしました。

 貧しいながらも、ひとりぼっちでなくなった猫は幸せでした。


 けれどそんな幸せも長くは続きませんでした。

 ある日の事、粉挽き職人は亡くなりました。

 そして残される猫のことを案じていたのか、猫は粉挽き職人の三人の息子のうち、三男に引き継がれることになりました。

 猫はまたひとりぼっちにならなくて済むことに安堵しましたが、兄たちがそれぞれ粉挽き小屋とロバを遺産としてもらったのに対して、三男の方は“自分だけ価値のない猫をもらった”と肩を落としている様子でした。


❀  ❀  ❀


 猫はどうしたら良いか考えました。

 猫はそんな三男を見るのが嫌でした。

 猫は家を飛び出しました。

 貧しいが故に貧相な家を出て、ひたすら走りました。

 そしてあるところで、こんな場面を目にしました。

 それは粉挽き職人ともその息子たちとも違って、とても身なりの良い人たちでした。

 その中で“王様”と呼ばれた人が、次々と贈り物を受け取っていました。

 王様は贈り物を受け取ると“褒美”を渡すこともありました。

 猫はそんな彼らをしっかりと観察しました。

 すると猫に妙案が浮かんだのです。

 けれどそれを実行するにはまだ、少しばかり足りません。

 

 猫はあちこちを駆け巡りました。

 すると、王様がいた城よりも少し小さなお城に着きました。

 その城には人食い鬼が住んでいるところでした。

 噂ではその人食いの鬼は、いろんな姿に化けることができ騙しては人を食らうのだとか。

 猫はその鬼に会いに行きました。

 鬼は自身が化けることができる噂のせいで、皆が用心深くなりなかなか思うようにいかないと漏らしていました。

 そしてここでも猫は妙案を思いつき、猫は鬼に言います。

「なら私がここに人間を連れてきましょう」

 そしてこうも言いました。

「その代わり、その化ける力でネズミになってください」

 猫は自分はねずみというものを見たことがないので見てみたいこと。

 また連れて来る人間に不信感や恐怖を与えない為だと言って納得させました。


❀  ❀  ❀


 猫は三男のいる、かつての粉挽き職人の家に帰りました。

 そして三男に対してこう言ったのです。

「私に大きな袋と長靴をください」

 三男は猫が喋ったことに驚きました。

 猫は驚く三男をそのままに「そうすれば、とてもいいことが起きる」と続けて言いました。

 三男は驚きながらも猫の言う通りに袋と長靴を用意しました。

 猫は用意して貰った袋を使ってうさぎを捕まえました。

 猫は捕まえたうさぎを王様のところへ持って行って「我が主人・カラバ侯爵が狩りをしまして。獲物の一部を献上せよとの言いつけによりお持ちしました」と言ってうさぎを献上しました。

 カラバ侯爵というのは猫が三男に勝手につけた名前でしたが、王様はすっかり信じ込み、何度も猫からの贈り物を受け取りました。



 ある日、猫は三男に川で水浴びをさせました。

 そして、そこを通りかかった王様とお姫様に向かって、

「カラバ侯爵が水浴びをしている間に、大事な服を盗まれた」

 と嘘をつきました。

 それを聞いた王様は気の毒に思い、立派な洋服を三男に贈りました。

 王様は三男を馬車に乗せ、三男の城まで送り届けることにしました。

 猫が馬車を先導することになりました。

 そして道端で人に会うたびに、

「『ここはカラバ侯爵の土地です』と言え。言わなければ八つ裂きにしてしまうぞ」

 と脅しました。

 驚いた人々は王様に何を聞かれても、カラバ侯爵の土地ですと答え、それを聞いた王様は立派なものだと感心しました。


 馬車を先導する猫は、一足先に人食い鬼の住む大きな城に到着しました。

 すると猫は鬼に言います。

「約束通り人間を連れてきました」

 けれど人間に、最初から鬼の姿を見られるわけにはいきませんと、猫は鬼に約束していたねずみの姿になるように促しました。

 鬼は言われるままねずみに姿を変えました。

 そして猫はねすみに化けた鬼に飛びつき食べてしまいました。

  馬車が近づくと、猫は城の外に出て「カラバ侯爵の城へようこそ」と、王様を迎えました。


❀  ❀  ❀


 そしてどうなったかというと、そこから先は皆が知っての通りのお話。

  元々貧しいながらも、心優しくとても礼儀正しい父親のもとで育った三男は、見事にカラバ侯爵になりきり、そんな三男にお姫様は恋をしました。

 それに気がついた王様は、三男にお姫様との結婚を申し込みました。

 三男は喜んで受け入れ、二人は結婚式を挙げ、幸せに暮らしました。


 もちろん傍らには、あの猫も一緒です。

 そして猫はというと、ねずみ捕りは趣味でやるだけになったとか。

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