もうひとつの「おやゆび姫」

 むかしむかしあるところに、子どものいない夫婦がいました。

 夫婦は魔法使いの助言で、咲かせたチューリップの真ん中にいた、親指ほどの大きさしかない小さな女の子に「おやゆび姫」と名付けました。

 おやゆび姫は歌が得意で、甘くやさしい歌声には誰もがうっとりしていました。


 ある夜、自分の息子の嫁にしようと思った大きな醜いヒキガエルによって、おやゆび姫は連れ攫われ、蓮の葉の上に乗せられてしまいました。翌朝目覚自分はヒキガエルの嫁になることを聞かされ悲しくて泣いていました。


 ヒキガエルの嫁になることを不憫に思ったメダカたちは蓮の茎を噛み切ります。

 おやゆび姫は飛んでいたチョウチョウにお願いして、葉っぱを引っ張ってもらいました。ですがその後、コガネムシに誘拐され、森に更に置き去りにされてしました。


 そうして辿り着いた先で、おやゆび姫は野ネズミの家を見つけました。おやゆび姫のかわいそうな話を聞いた野ネズミのおばあさんは、おやゆび姫を自宅に上げ、楽しい毎日を過ごすようになりました。近所にはお金持ちのモグラが住んでおり、モグラはおやゆび姫に一目ぼれして嫁にしようと考えていました。


 そんなある日、おやゆび姫はモグラの家にいた瀕死のツバメを見つけました。


❀  ❀  ❀


 ツバメは厳しい冬を越すために渡りをする鳥です。

 ツバメは仲間と共に渡りをしている途中で鷹に襲われ傷を負いましたが、致命傷ではなかった為一命はとりとめていました。

 けれどツバメにとっては時間の問題でした。

 なぜなら、致命傷ではなかったとしても、寒さに弱いものにとって冬超えが出来なければ命に関わるからです。

 ツバメは残る力を振り絞り、隠れる為と少しでも暖をとる為に、地面の穴に身を寄せました。

 そしてそこはモグラの家でした。

 そしてそこでツバメは運命的な出会いをしました。

 

 ツバメは自分を見つけた、おやゆび姫という小さな女の子に助けられました。

 おやゆび姫の献身的な世話のおかげでツバメは元気を取り戻すことができました。

 やがて、おやゆび姫に助けられたツバメに旅立つ時がきました。

 ツバメはおやゆび姫に感謝し「一緒に行こう」と誘いました。


「ありがとう。でも、いけないわ」

「どうして?」

「だって、わたしがいなくなったら、お世話になった野ネズミのおばさんがさびしがります」

 ツバメのことが好きだったおやゆび姫は喜びましたが、野ネズミのおばあさんを残していけないと誘いを断りました。

 ツバメは仕方なく、仲間を追いかけるように旅立ちました。


 仲間に追いついたツバメでしたが、おやゆび姫の事が頭から離れません。

 そんなツバメを心配して仲間たちが話を聞きます。

「なんだ、それなら花の国に連れて行ったらいいんじゃないか?」

「そうだよ! あそこにはキミのいう“おやゆび姫”の仲間たちが住んでるよ」


 それを聞いたツバメは、おやゆび姫に会いに行こうと決意しました。


❀  ❀  ❀


 一方、ツバメが旅立った後、おやゆび姫はモグラに結婚を申し込まれました。モグラはきらいではありませんが、モグラと結婚したらずっと地面の底で暮らさなければなりません。モグラは、お日さまも花も大きらいだからです。

 モグラと結婚したら大好きなお日様にも二度と当たることができず、ツバメにも会うことができないのでおやゆび姫は悲しくて泣きました。


 結婚式の日は暖かな春の日となりました。

 そしてその結婚式の当日。

「さようなら、お日さま、お花さんたち。わたしは地面の底で暮らさなくてはならなくなったの。たからもう二度とあなたたちに会えないわ」

 おやゆび姫はこれが最後だと、外の光景を胸に焼き付けながら大好きな世界に語りかけます。

 ですがその途中で悲しくなって、泣き出しました。

 するとその時、空の上から聞き覚えのある声が聞こえてきたのです。


「おやゆび姫。お迎えに来たよ」

 するとそこへ、あの助けたツバメがやってきて「一緒に行こう」と言いました。

 おやゆび姫は決心してツバメの背中に乗り、大空へと舞い上がりました。

 そしてツバメはおやゆび姫を背中に乗せて、大空を飛んでいきました。


❀  ❀  ❀


 そこから先は皆が知っての通りのお話。


 暖かい花の国に着いたツバメは、おやゆび姫を大きな花の上に乗せました。

 よく見ると、花の真ん中におやゆび姫と同じ大きさの人がいました。

 おやゆび姫はとても驚きましたが、実はその人は花の妖精の王子様で、王子様はおやゆび姫を見てとても喜びました。

 それから2人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしました。


 そしてその後、仲間のもとに帰ったツバメですが、時々おやゆび姫に会いに花の国を訪れては楽しい時間を過ごしたり、おやゆび姫を乗せて大空を飛んだりしたそうです。もちろん、おやゆび姫が合いたくてやまなかった、夫婦のもとにも一緒に遊びに行くことがあったのだとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る