もうひとつの「シンデレラ」

 むかしむかしあるとろこに、シンデレラという名の美しく優しい娘がいました。

 幼い頃に母親を亡くしたシンデレラは、父親が再婚した継母とその連れ後である二人の姉にまるで召使いのように扱われていました。


 ある時、この国の王子様が舞踏会を開くことになり、姉たちはきれいに着飾って出かけていきました。

 ボロボロの服を着たシンデレラはもちろん連れて行ってもらえず、それどころか、留守の間家中の掃除や片づけを命じられていました。

 シンデレラが悲しみに暮れ泣いていると、優しそうな顔をした魔法使いが現れたのです。


❀  ❀  ❀


「まあ、泣かないでシンデレラ。私の魔法であなたを舞踏会に連れて行ってあげるわ」

 魔法使いはそう言うと、辺りを見渡します。

「ん~そうね、アレとアレかしら?」

 魔法使いが独り言を呟くように、少し考え込みました。


(でもそうね……あの継母と義姉たちよりも早く家に帰らないと、きっと大変なことになるわね。ねずみは元に戻してあげるとして、かぼちゃが無くなったら困るだろうし、キレイな服が手元に残ったら、継母と姉たちに何をされるか……)


 そう思いながら、魔法使いは魔法の呪文を唱えます。

 すると不思議なことに、ボロボロの服は美しいドレスに、畑で育てたかぼちゃとねずみは豪華な馬車と、それを引く立派な白馬に変わりました。


(でも、もしも途中で魔法が解けてしまったら、素足になってしまうのもしのびないわね……。それに何か記念になるものが残ると嬉しいわよね……。靴なら服で見えないから継母と姉たちにも気付かれないでしょうし、小さいから隠して持っておけるわ)


 そして最後の魔法で、魔法使いはシンデレラにきらきらと美しいガラスの靴を用意しました。

 魔法使いに魔法をかけられたシンデレラは、大喜びで舞踏会へ向かおうとしましたが、魔法使いがある忠告をしました。


「いいシンデレラ、深夜0時の鐘の音が過ぎれば全ての魔法が解けてしまうの。だから鐘の音が鳴りやむまでには帰ってきて頂戴」


❀  ❀  ❀


(約束をしてくれたのはいいけれど、楽しい時間というのはどんなに意識していたとしても、早くすぎてしまうものだわ。それにあの姿に、継母たちに気付かれないと良いのだけれど……)


 シンデレラを舞踏会へと送り出した魔法使いですが……、シンデレラを心配してこっそりと見守っていました。

 するとシンデレラは王子様からダンスに誘われ、夢のような時間を楽しんでりるようでした。


 楽しい時間というのは、早く過ぎてしまうものです。

 気付けば、シンデレラに約束の時間が迫っていました。

 王子様は必死に引きとめようとするも、慌てたシンデレラは帰りを急ぎます。


(シンデレラが早く家に帰れるようにと、約束を取り付けて、あの魔法をかけたけど……これじゃ、二人がかわいそうだわ)


 そんな二人の様子を見て、魔法使いは考えます。


(そうだわ! あの靴は約束の時間が来ても魔法は解けないわ。もしものことを考えて、他の者にはサイズが絶対に合わないようにしておきましょう)


 魔法使いは再び呪文を唱えます。

 すると、それまでシンデレラの足にピッタリとはまっていた、ガラスの靴の片方だけが急に外れてしまいました。

 けれどシンデレラには、靴を拾う時間はありません。

 シンデレラは片方の靴を残したまま、その場を後にしました。



 そして残念がる王子様の目の前には、シンデレラがはいていたガラスの靴が片一方だけ残されていました。


❀  ❀  ❀


 

 そこから先は皆が知っての通りのお話。


 王子様は舞踏会に来ていた、ガラスの靴をはいた女性を自分の妻にするといい、ガラスの靴にぴったり足が入る女性を探すことにしました。

  我こそは、と町中の女性が残されたガラスの靴をはいてみたのですがぴったりと合う女性は現れませんでした。


 もちろんシンデレラの姉たちも無理やりガラスの靴をはこうとしたのですが全く合いませんでした。


 そこへシンデレラが進み出て、「私にも試させてほしい」と王子様の家来に願い出ました。それを聞いた姉たちは「お前みたいな汚い娘にガラスの靴が合うわけがない」と笑います。


 しかしシンデレラがガラスの靴をはいてみると、靴はまるでシンデレラのために仕立てたかのようにぴったりでした。 そしてシンデレラは持っていたもう片一方のガラスの靴を取り出してはきました。


 家来は王子様のいる城へシンデレラを連れて行き、数日後王子様とシンデレラは結婚し幸せに暮らしました。



 そして魔法使いはというと、シンデレラの母の形見の木の傍で、ことの成り行きを、優しい笑顔でひっそりと見守っていたのは、ないしょの話です。


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