第10話 あわただしい一日を終えて


 あわただしい一日が終わろうかという夜。


 フユに案内された部屋のベッドに寝転がり今日起きたドタバタを思い起こす自分がいた。


「ふぅー疲れた。夢が現実になるのは気持ちが良かったけど、なったらなってみたで虚しいもんだな」



 考えてみたらこの世界に送りこまれて一日目、いったい何か出来ただろうか?


先代の転生、転移の方々は凄いよ。


 少なくとも、俺みたいに逃げ回ってたやつとかいなかった。 


 無論その話は創作物の話なのに、いざ自分が異世界に行ってみるとどうしても比べたくなる。



 そんなくだらない事を思いながらも俺は気づいてしまった、まだ一日目は終わっていないと。


 コンコン


「カオル、お腹空いてませんか」


 2人分の食事をトレーに置きこれこそウェイトレスといわんばかりの仕草で部屋に入ってきた。




「今日は一日お疲れ様でした。このギルドはどうでしたか?」


「どうも何もここにいて良いのかなってちょっと不安になったよ」


 フユは少し微笑みながら机に料理を置いた。


「最初は誰でもそうですよ。初めてあった人と仲良くなれるかとか、仲間の足を引っ張らないか。私なんか最初は動き回りすぎて、ジーナさんが動き辛くなったり色々酷かったんですよ」




 自分の過去の失敗を語っているのにその顔はどこか誇らしげだった。 


「すごいよな、どうしてフユは笑いながら嫌な話ができるの」


「そんな事はないですよ、私も最初は辛い事がたっくさんあって、もうここに居るのが嫌になった事があるんですけど、仲間にその事を話してると少しずつ楽になるんでよ」


 同情ではなく心からの言葉はどこかたくましく見えた。



「ありがとうな。でも実際今日の俺の失敗や悩みって全部見られてるし、明日はそれを払拭するために一生懸命頑張るよ」


 そう思うとさっきまであまり意識して無かったのにお腹がすいてきた。


 持ってきてくれた料理はパンにシチューらしき物、今すぐにでも食いつきたい。




「どうしたんですか? じっと料理を見つめてそんなにお腹空いてたんですか?」 


「いや、明日は頑張らなきゃなって思ったら急にお腹減ってさ」


 あぁーシチューが白く輝いて見えて来た。


「そんなにお腹が空いて居るなら…………どうぞ召し上がって下さい」


「えぇ、良いの?」


 その言葉を聞き慌ててスプーンを手に持ち、まるで子供のように手を合わせた。


「いただきます」



 味はそのまんまのシューしかし、食べてくと今まで体験したこともない少しピリッとした辛味がある。


 それがまた食欲を引き立たせ、頬張るようにして次へと進む。


「もう、そんなに慌てないでゆっくりと食べて下さい」


 フユはパンを手に取り上品に千切ってシチューにつけ食べている。


 こんな美味しい物が食べれるなんて、もっと硬い干し肉とかばっか食べると思ってたから少し感動すらしている。


 気がつけば皿には何一つ残っておらず、腹は膨れあがり、そのまんま倒れるように眠りこんでいた。



 次の日


「おーいカオル、君はいつまでも眠りこけてるつもりなんだい?」


 修道女の服装をしたタマキがお越しに来てくれていた。  


 ん? 修道女? なんでそんな服を着ているんだろうか。


 男の娘はわかっているがそれでは、まるで、今から出かけるような。



 ハッと目がさえ、少しドキッと心臓が鼓動し、慌てて窓を向いた。


「寝坊か!」


 結果はそんなこと等一切なく、陽の登りはまだ朝とゆうには少し暗めの高さだが、朝焼けとゆうには遅すぎる、そんな早い時刻だった。


「なんで、俺早く起こされたの?」



 元々朝は弱いとゆう訳では無いが、こんなに早く起きるほど強い訳でも無い。


「君はホントに何も知らないんだね、ダンジョンに行くってゆうのは朝一から出発して昼間には潜っておくものなんだよ。昨日みたいに昼間っから行くってのは実はかなり珍しいことなんだよ」


 そんな事情、今知っても意味がないんですよ。  


「まぁ、昨日は色々失敗があったみたいだけど今日は大活躍を期待してるからね、カオル君」



 クソっ不覚にも男に君呼びされて少し嬉しいと思った自分を殴りたい。


「そして、その大1歩として君には大きな、大きなミッションを与えよう」


「ストップ、まだ俺はそれをやるとは言ってないしメリットが無いとやりたくない」


 何か嫌な予感がする、タマキの言うミッションとやらを引き受けてはいけない気がする。


 確証はないけど、本能的なところで感じる。



「いやー、言うもんだね、一応君はここでは新人なんだよ、先輩の言うことには聞いとかないと」


 その部活的発想、凄い俺の嫌いなやつなんですけど。


「でも、これは君にしか頼めないこと何だ、どうしても僕には荷が重くてね。そうだ、じゃあ引き受けてくれたら、君には取って置きのバフをかけて活躍させてあげるよ」




 魅力的なアイデアに重い頭を縦に振っていた。


「分かったよ、バシッとカッコよく終わらせてきてやるよ」


「ヒューかっこいい、よっぽど昨日の切実をはらしたいんだね」


 タマキはニヤニヤと不敵に笑いながら、その場所まで連れてってくれた。


 とゆうか、その場所はすぐそこにあった。




 なんとそこは、ジーナの部屋だった。


「君のミッションは、今、この部屋の中で寝ているジーナをたたき起こす事だ」


 昨日の今日のため、乗り気はしない散々とまではいかずとも貶して来た相手を優しく起こす気にはなれない。


「一応聞くけど、起こすなら何しても良いの?」


「やるねぇ、良いよ起こしてくれるなら何をしても」




 タマキは笑いを堪えてるのが見て分かるほどに面白がっている。


 この中で今から何が起こるとゆうのだろうか。 


「じゃあ、ジーナを起こしてきます、起きたらさっきの事お願いしますよ」


 俺は親指を自身たっぷりに揚げて勢い良く部屋に突入し、息をめいいっぱい吸い込んだ。


「起きろー」



 典型、人を起こすさい良くやる大声をあげる王道のパターン、しかし神様を怒らせてたこの煽り性能で目を覚めさしてやるよ。


 すると、突然一度目にしたことある、青白い光に包まれた。


「あれっこれデジャブ」


 そして、またもや同じ手法で外に追い出された。


 一つ、前回と違うことを言うのならタマキの笑い声が外にも聞こえるほど大きかった。

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