第8話 金の使い方

「エネルギーってのは単純に考えて……食事だな。お腹が空くだろ? それがエネルギー不足ってやつだ。大体あってる」

「そういうことですね」

 そう言った割に彼女はじとーとこちらを見ていた。もし、口を開いていれば『馬鹿にしてるだろ』と言ったのは間違いない。


「で、このペンダントが空腹ってわけだ。そして、どうやらこの棒貨がその食事になりそうって状態だ」

「神の涙が食事……そんな事があるのでしょうか……?」

「何か知っているかと思って聞いたんだが、そうでは無いようだな。それに今からやってみたら分かる」

 ペンダントに棒を近づけてみると──。


 ピカァ──。

「──何も起きませんね」

 そう、ピカァなんて事にはならず、そこにはそのままペンダントと棒貨が鎮座していた。

「……」

『通知! 通知! エネルギーゲートをオープンします』

 モインッ──。

「えっ!」

「変な音がしたな」

「そんなことはどうでもいいです。何でしょうかこれは……」

「ここに棒貨を入れるらしいぞ?」

 薄紫色で反対側が透けて見える枠みたいなの物が見えた。そこに棒貨を落とす──棒貨は薄紫の枠に触れた途端、淡い光を発しながら消えていった。


「消えましたね……」

『通知! 通知! エネルギーが補充されました』

「おっ、合ってたみたいだぞ」

 これで、ようやく一息つけ──。

『エネルギー残量:■□□□□□□□□□』

『警告! 警告! エネルギー残量が僅かです。速やかにエネルギーの補給を行ってください』

「はっ!?」

 身体が強張る。

「どうかなさいましたか?」

「……まだ食い足りないらしい」


『どんだけのエネルギーがいるんだ?』

『分かりません。アリス様にご協力頂いたらいかがでしょうか?』

『要するに金を借りろ、と?』

『ええ。それ以外に方法がありますか? それとも仕事を斡旋してもらいましょうか?』

『……』


「さっきの棒貨でも足りないとなると……とても大食らいですね……」

「そんなにか?」

「えぇ。大体10回はお腹いっぱい美味しいお食事が頂ける位の金額ですね」

「……さっきの奴らが大量にいる所は無いのか?」

「あるわけ無いでしょうっ! 一人居ただけでも大騒ぎで大変な事になるのにぃ!」

「そうか……」

 その瞬間、アリスの目が光った気がした。

「なるほど~。そういうことでしたかぁ」

 こいつに頼ってはいけない。そんな気がして、踵を返そうとした──。

「どこにいくのでしょうか?」

 回り込まれてしまった。


「お困りのようですねぇ」

 先程の絵になるような艶のある表情ではなく、獲物を見つけた詐欺師のようなニタニタとした嫌な予感をまとっている。背中が冷えていく。

「だ、大丈夫だ。心配ない。何とかする──」

「いぇ、そんな遠慮なさらずに。こう見えて、お金は持ってる方なんですよ」

「なんとかなる……」

「さっき、ここに来たばかりでアテはあるのでしょうか? あとはレミールさんの誠意次第ですけどねぇ」


「……」

「決断は早い方がいいですよ。後になればなるほど、言いづらく、しかもかっこ悪くなりますし~」

 もう、詐欺師の言葉にしか聞こえない。ここで魔の手に落ちる訳にはいかない。


「あれは何だ?」

 と、彼女の後ろの方を指差す。

「何かありましたか?」


 その瞬間、彼女の視線が逸れた──。



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アークの箱庭 小町 甚 @usergkend

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