heroism

守株

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 気弱な少年がいた。



 少年はいつもみんなからいじめられていた。

 

 別にいじめられることに苦は感じない。


 自分が耐えればいいだけの話だ。


 だがもちろん、いじめられていて嬉しい事なんて一つもなかった。


 いじめとは少年にとっては特に面白みもない、ただの邪魔な塊でしか無かった。


 こんな日常なんてものはただのつまらない世界にしか過ぎない。


 少年は誰もいない、だだっ広い空間で永遠に、ただひたすらに、日常をいう名の異物を消費する事を願っていた。


 少年は帰り道も一人だった。


 いや、むしろ一人で帰るのが好きだった。


 いつも寄り道する場所があるからだ。


 ______廃工場。

 別に面白いものがあるわけではないが、誰も来る事のないこの場所だけが少年にとっての理想郷であった。


 だがある時、この廃工場の中で少年はある場所を見つけた。


 その場所は本来なら出口にあたるドアの先にあった。


 その鉄製の重たいドアの向こうには無限に続く空間があった。


 そして、たくさんの人がいた。


 だが人と呼べるかは悩ましかった。


 何故ならその人らしきものには顔が無かったからだ。


 いや、正確に言えば首から上がないのだ。


 だが、人々は会話をしていた。


 少年はその会話を立ち聞きしてみた。


 とても和気藹々とした会話で、聞いていた少年も何故か嬉しい気分になった。


 時には皮肉やつまらない事を言う奴もいたがそういう奴は皆から袋叩きにされていた。


 少年はそれをただ見ていただけだが妙に気分が良かった。


 いい気分になった少年は、次は自分も会話に参加しようと決意した。


 そして楽しそうな会話をしている集まりを見つけ、今度は立ち聞きしているだけでなく会話に自ら入っていった。


 少年は初めて自分の居場所を見つけた様な気がした。


 自分が発言する度に誰かがその発言に対して返事をしてくれたのだ。


 ここでもつまらない事を言う奴はいたがそいつは例によって袋叩きにされた。


 今度は少年も袋叩きに参加した。




 言葉では言い表せない快感であった。




 少年は次第に、他人を否定する事の快感を覚えた。


 別に全ての他人を否定するわけではない。


 ただつまらない事を言う奴を否定し、正しい考えに直すだけの事だ。


 自分が否定することによって他人を

 へと救っているのだ。


 とても素敵な事ではないか。



 少年は警察官の様な気分でいた。


 悪い奴がいたら否定なければならない。


 そんな使命感を抱きながら会話を巡回し、参加をしていた。




 ある時、とてもつまらない事を言う奴がいた。


 少年は直感的にそのつまらない発言を否定した。


 相手は激怒した。


 そして、少年に向かって殴りかかった。


 少年はとっさに身構えたが拳は体に当たった。


 しかし、あることに気づいた。


 痛くないのだ。


 少年は反対に相手に殴りかかった。


 だが相手も痛がる様子はなく、少年に殴りかかってくる。


 少年もついに激怒した。


 拳と同時に相手の発言を否定した。


 すると相手も少年の意見を否定した。


 少年は相手に考えを改める様に言った。


 すると相手も少年の考えを改める様に言った。


 もちろん少年は考えを改める気は無かったし、相手も同じ様であった。

 

 少年と相手はになり永遠に殴り合った。


 意味がないのはわかっている。

 だが殴り合った。










 それでも少年は気分が良かった。

 自分の考えを主張することができ、相手の主張を否定することができるからだ。



 少年は、自分の居場所を見つけたのだ

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