この有限なる生命の矮小な夢

森茶民 フドロジェクト 山岸

夢なのか、幻なのか、現実なのか。



 私は、逃げていた……。


 私は逃げているのを観ていた。


 私は、平原を駆け、人形ひとがたの群から1人、逃げていた……。


 私は平原を駆け、人形ひとがたの群から1人で逃げている私を観ていた。


 私は、小高い丘に、石の塔が建っているのが見えた……。


 私は小高い丘に建つ、崩れかけの石の塔を見た。


 私は、石の塔へ、走った……。

 私は、その小高い丘の斜面を、走った……。

 私は、石の塔の木扉を、認識した……。


 私は崩れかけの石の塔から、大量の人形ひとがたが溢れて来るのを見た。

 私が方向転換をし、倒れ臥す様に宙に浮かんだのを私は観ていた。


 私は、小高い丘の斜面を、転がっていた……。


 私は小高い丘の麓で、私が止まったのを観ていた。


 私は、体を起こし、小高い丘と、向こう側走って来た方向から、人形ひとがたが走って来るのを、見た……。


 私は小高い丘と、向 こ う 側私が走って来た方向から人形ひとがたが、脚を引き摺っている、だのに、尋常に走っている様に思える不気味なモノが、私に近づいて行くのを観ていた。


 私は、息を上げていた……。


私は徐々に徐々に走る速度が落ち、ゆっくりと、だが確実に不気味な人形ひとがたが私に近づいて行くのを観ていた。


 私は私が、人形ひとがたに追い付かれ、平原に組敷かれるのを観ていた。


 私は、押し倒され、人形ひとがたが、その虚ろで、不明瞭な顔を近付け、口を開き、私の手を……指を……足を……腿を……腹を……頬を……額を……口に入れ、咀嚼もせずに、嚥下しているのを、眺めながら、精一杯、四肢を動かそうと、していた……。


 私は私が、段々小さく成って行くのを観ていた……。

 ただただ観ていた……。


 やがて、人形ひとがたは、立ち上がり、フラフラと、動き出して――――















 私は、何かスッキリした心持ちで寝床から起きあがった。

 心臓が、ドク、ドク、と、平時より速く、動いていた。


 …………どこか、満足感を感じていた……。



⚖️ ⚖️ ⚖️ ⚖️ ⚖️ ⚖️ ⚖️



 私は何故か落ちていた。

 落ちている。と、感じていた。


 暗いかと思えば明るく、黒かと思えば白く、時々葉が付いている枝に当たりながら、なんだか判然としない空間を、「落ちている」と、感じていた。


 ただただ感じていた……。






 突然、何の前触れも無く、目が、覚めた。

 何だか頭が痛かった……。

 頭痛がしていた……。

 そして、凄く混乱していた。

 凄く凄く錯綜していた。

 不気味だった……。



⚖️ ⚖️ ⚖️ ⚖️ ⚖️ ⚖️ ⚖️



「持ってってぇっ!」

 母の晩御飯を完成させた声を聞き、その場から体を起こそうとした……。


 だが、体が動かなかった。

 スグに金縛りだと気付き、

「そんなに疲れてたのか」

 と、自嘲しながら、どうにかして体を動かそうとしていた。


 今迄、ネットや本などで、「金縛りに会ったら体が動かない」というのを見ていて、妙な先入観と、楽観視が有った。


 いざ体験してみると、全く違った。

「体が動かない」という言葉から、「筋肉が硬直して云々」などと考えていたが、「体が動かない」のではなく、「体の動かし方が判らない」だった。


 いくら力を入れようにも、体のどこに力を入れれば良いのか判断が付かず、体が全く動かせなかった。

 私は恐ろしくて、そして焦った。


 咄嗟に、家族に助けを求めようと声を上げようとしたが、声が出なかった……。

 また、私は焦った。


 どうにかしようと力を入れ、体を動かそうとするも全く検討違いの部位に力が篭るのを感じ、どうにか体を動かそうと四苦八苦するも、心臓が早鐘を打つ気配を感じ、段々息が荒れ始めた……。

様に感じたが、私の息は至って平常に漏れており、それに気付いた私は尚いっそう狼狽し、怖気た。


 つい、目を閉じ、心を落ち着かせ様としてしまった。


 目を閉じ、瞳に暗闇が訪れたか訪れていないかは判然としなかったが、目の前に焼け爛れた掌が現れ、私の顔面を掴もうとした瞬間……

 目が覚め、体を勢いよく上げた。


「夢だったのか…」

 と、安堵し、崩れる様に仰向けになった。


 早鐘を打つ心臓を落ち着かせようと呼吸しながら、母が料理を完成させようしている音を聞いていた。


「持ってってぇ!」

 母の晩御飯を完成させた声を聞き、その場から体を起こそうとした……。



⚖️ ⚖️ ⚖️  ⚖️ ⚖️ ⚖️ ⚖️



 私は、車を運転をしていた。

 硝子のような薄い透明な板で隔てた後部座席に、男の人が座っている様だ。


 どうやら私は、タクシーを運転しているらしい。


 目的地に近づいて来た時、私に、「霊から_____は貰ってはいけない」という情報が、まるで前々から知っていたかの様に思い浮かんだ。


 目的地に着き、車を停め、後部座席の男から何かを貰い、何かを返した。

 私は何か、達成感のような、満足感のようなモノを感じていたようだが、後ろから腕が這いより、左頭部側から男の頭が伸びて来て、

「ざぁんねぇんでぇぇしたぁ!」

という不気味な声を発した所で、

私は覚醒した。


 酷く心臓が煩く、目を瞑るのに恐怖していた。


「記憶している限りでは5回しか夢を観た事がないのに、なんでこんな夢ばかり見るのだろう?」

と朧気に思いながら、

顔を洗いに洗面所へ歩いていった……。


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この有限なる生命の矮小な夢 森茶民 フドロジェクト 山岸 @morityamin

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