第3話
真空魔法ってね、独特の音がすんだよね。便所掃除の時にギュッポギュッポするヤツあるじゃん? アレとそっくりな音がする。前触れとかは全くない。
スポン!
これだけ。これがアソヴゥトサのつまんねえ人生が終わった音だった。
「幽○白○」の〝美○家〟ってわかる? 戸○呂兄に寄生されてたやつ。あんな感じに顎から上が……え? 幽白ダメ? 集○社だから? あ、カクヨムってアレか。KADOKAWAだもんな。ごめん、今のなしで。
まあ、痛くはなかったと思う。マジで一瞬だったし、考える頭が消し飛んでるわけだから。せめて、痛くなかったと思いたい。
……まあまあ、そんな感じでアソヴは死んじゃったんだけどさ、自業自得ではあるんだよね。どう考えても盗みに入ったおれらが悪いじゃん?
でも、こうも思った。不公平じゃねえ? って。
だってアソヴは別にパンツが好きで盗みやってた訳じゃないんだよ。ただ生きるために、それしか知らないから、そうするしかなかったんだよ。
アソヴは本当はパンツなんか盗みたくなくて、パン屋さんになりたかったんだ。でも、金がないから、学がないから、なにも頼れるものがないから、ブルセラ屋をやるしかなかったんだ。
でも死んだ。馬鹿みたいなクソブラック仕事に命賭けて、くだらねえ布切れのためにアソヴは死んだ。金がなくて学がなくてなにも頼れるものがなかったから死んだ。葬式も出せない。金がないから。
そう思うと怒りが足の裏からこみ上げて来た。おれは女子寮の廊下を無我夢中で走った。
もうパン屋は開けないけど、それでも絶対にパンツ一枚くらいは盗んでやろうと思った。生まれつき何もかも持っているヤツから、何かひとつでも奪ってやりたかった。
人間って意外と底力があるもんで、おれは奇跡的に目標の部屋に辿り着くことが出来たのね。もう全身血だらけよ。おれは渾身の力でドアを蹴破った。バーン!
そしたら、起きてんのね。女の子。
まあそらそうよ。あんだけドタバタしてたら普通起きるわ。たぶん寮の子全員起きてたんじゃないかな。
真っ青な顔で、杖こっちに向けて、ぶるぶる震えてんの。
「……どちらさまですか? 何をしに来たのですか?」とか言って。
噂に違わぬ美少女だったね。まるで「涼宮ハルヒの憂鬱」に出てくる……は? ハルヒもダメ? ハルヒ、KADOKAWAだよ?
……あ〜はいはい。チッ、うるせえな。反省してま〜す。
まあいいや、すげえ可愛い子だったよ。そんで、その時なんかスッと醒めちゃったんだよね。
だって、その子加害者じゃないもん。完全に、どう見ても被害者なんだもん。
確かに彼女はおれたちが持ってないものを全部持ってたけど、おれたちから色んなものを奪ってきたのはあくまで社会の仕組みっていうか、色んなものが寄り集まったもっと大きいもので、その子じゃないんだよね。
おれたちはそれまで、そういう何の罪もない子たちから、制服やらパンツやら靴下やらをかすめ取ってきた。生きるためだって言い訳しながら。
そんな当たり前のことですら、おれは彼女の顔を見るまで気づけてなかったんだよね。アソヴはおれのことを「頭がいい」って言ってたけど、とんだ見込み違いだよ。
おれは反省して、正直に「パンツ盗みに来たんですけど、やっぱ要らないんで帰ります」って言ってやった。
女の子は「何言ってんだこいつ」って顔をしてたけど、おれの心は晴れやかだった。
生きる意味みたいなものが見つかった気がしたからね。
誰からも奪わないこと、奪わせないこと。何かを奪う社会の構造自体に異を唱えること。それが、メンヒバッシがおれを呼んだ理由そのものなんじゃないかって思えた。
これからは、世界を変えるために生きようってね。
え? じゃあなんで異世界から戻ってきたかって?
いや、その子の部屋、三階でさ。逃げるときに足滑らせちゃったんだよね。頭から落ちてさ、こう、首の骨がゴキリィって。
〈おれがクナピトル・ウェミナンシをしていたときの話 了〉
おれがクナピトル・ウェミナンシをしていたときの話 逢坂 新 @aisk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます