ちょっとドキドキがあって、ちゃんと落ちもある秀逸な短編です。もちろん愛もある漂流記で、読後、魅惑的なヒロインの容姿が目の前に厳然と屹立すること請け合いです。作者の他の作品も読んでみたくなりました。
男子学生なら一度は迎えるであろうと信じてやまない「斜に構える」時期。変なとこだけ物知りで、自分の卑しい感情にすらまどろっこしい理由をつけたがるあの時。皆はあるだろうか?少なくとも私はあった。恥ずかしいことかもしれないが、事実だ。荒唐無稽なシチュエーションの中で進む話かもしれない。私も学生時代に遭難は嗜んでいない。でもそこに描かれた一人称の濃密な感情は紛れもなく青々としたそれであり、ひどく心をざわめかせる!
勘のいい読者なら、読みはじめてすぐ「あ、あの話のオマージュだな」と気づく。問題はそこから。広げた話をどう畳むか。アイデアそのものは他の作者でも思いつくのかもしれない。しかし人物描写の超絶技巧がこの作品を凡作にしてくれない。いやズルいでしょ……ヒロイン可愛すぎでしょ……。あんなの女の私でも「まあしょうがないかな!(サムズアップ)」ってなっちゃうでしょ……。