走れ、私

紅蛇

ヒールは、白黒のストライプ。

 種類のわからない音楽の、電子音がDJのすぴーかーから流れて、本体まるいやつをゆらしてる。一緒に踊ってるみたい。粘り気を帯びた、音色。フロアが回転する。

 弦楽器とパーカッションは、少し似てる。低い音の、振動が。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。楽しい。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。長い。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。あ、止まった。

 最後らへん、空耳でぷしーきゃっとって聞こえてきて、焦ってたから安心。昨日、クラブで知り合った黒人これは差別的?とヤッたからかな。そう聞こえる。電話で「How's your pussy?」と聞こえて、彼の返事を聞く前にホテルを飛びでて、繁華街に出た。そのときの、ぷしー。やる気のない音。意味は卑猥。まだ彼に強く掴まれた手首が痛む。クラブで流れたテクノが、幻聴のように(耳の中で)反射した。

 駅まで、歩く。少し、早足で。黒い服の、ダサい髪型。「キャバクラどうですか?」と足を止める。ガールズバーのお姉さんたちの生足発見。一本。二本。三本。大根。嘘、四本。顔は……微妙。

 喉がいがいがする。酔っ払いの大学生を横切る。二十四時間あいているコンビニに到着し、安堵が溢れる。愉快そうなラジオ。眠そうな店員。減らない商品。冷えているお水。手に取る。あ、マニキュア剥げかけ。耳元に、エアコンの風。——気持ちいい。

 お金を払って、また急ぎ足。駅まであと数分。終点まで、あと何分? とにかく急ごう。メイクがひどいだろうなぁ。自慢の長いまつ毛は、真っ黒なインクマスカラで汚れてる。落としたい、帰りたい、眠りたい。知らない男性に抱かれるのは、もういやだ。またぐのは、危険ではなく玄関だけがいい。——幻聴。げんちょう。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ——

 

 あれ、いつの間に改札。電光掲示板には、終電の文字。あと三分。急げ、私。走れ、私。あ、むり。まって。え。あし。え。い、た。ぐきって、いま。いま、ぐきってい、いった——あ。折れた。ヒール、ぼきって。しにたい。待って、時間は? まだ。ねちっこい前戯よりも、うざい、このヒール。絶対乗ってみせる。裸足になって、走ってやる。階段は残り数段。いける。いける。いける。——ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。とっとっとっとっとっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。とっとっとっとっとっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっとっとっとっとっとっ。とっとっとっとっとっ。とっとっとっとっとっ。ごぉぉぉぉ……とっ——


 左手に、ショルダーポーチ。右手に折れたヒール。私が立っている場所は、駅のホーム。目の前には、からっぽな空間。——ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。——え……。——ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。ぶっしかっぶっしかっ。——

 知らない曲が、ハエみたいで、うっとうしい。明日、朝から仕事なのに、めんどくさいな。心が折れちゃいそうだよ。あ、今のうまくない?

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走れ、私 紅蛇 @sleep_kurenaii

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