クスノキの下で
藤田大腸
クスノキの下で
とある歴史の古い女子校があった。
乙女たちは校庭に生えた一本の大きなクスノキに見守られながらよく学び、よく遊んだ。
また、この学校には伝統があった。
親しい先輩と後輩が姉妹の契りを結び、より一層深い仲になるというものだ。
友愛とも恋愛ともいえる感情で結ばれた二人は、尊く清い存在であった。
しかし残酷な時代の流れは学園を飲み込んでいった。
女性の社会進出著しい現代において、良妻賢母を育てる校風は時代遅れとされ、さらに少子化が追い打ちをかけた。
学園は経営難に陥り、ついにその身を売らざるを得なくなった。
学園を買い取ったのは伝統とは何たるかを知らぬ者であった。
彼は「改革」という耳障りの良い言葉を駆使し、百余年に渡って学園が築きあげたものを壊していった。
中でも極めつけは乙女の園そのものを破壊することであった。生徒たちやかつて学園で学んだ乙女たちは抵抗したが、暴君は耳を貸さなかった。
乙女の園の命数が尽きようとしているさなか、二人はクスノキの下で語らい合った……
嗚呼お姉さま。私たちは一体どうなるのでしょうか。
大声を出さないで。お姉さまと呼ぶのは禁じられているのよ。
申し訳ありません。しかし今の理事長は私たちを殺そうとしています。
あの人は姉妹の契りをを禁じられました。
あの人は私の師を遠くに追いやりました。
そしてあの人は来年汚らわしい者たちを招き入れようとしています。
彼奴らは私たちの仲を引き裂こうとするでしょう。
嫌です。そんなの絶対に嫌です。
落ち着きなさい。
この世に永遠の存在というものはないの。
学園もまたその
しかしお姉さま。ならば私たちの仲も永遠ではないということでしょうか。
私たちの仲もここで終わってしまうのでしょうか。
落ち着きなさい。
例え学園が変わっても私たちの仲まで変えることなんてできるわけがないわ。
でもあの人は変えてはいけないものを次々と変えてしまいました。
私たちだって……。
……わかったわ。
あなた、私に付いていく覚悟はあるかしら。
はい。お姉さまとならどこまでも。
じゃあ、一緒に出ていきましょう。この地が不浄にまみれる前に。
嗚呼、お姉さま。お姉さま……。
かつてクスノキの下で姉妹の契りを交わした二人は学園を去った。彼女たちに続くように、清く尊い姉妹たちは次々と親しんだ学び舎を離れていった。
未来に希望を抱きつつ、校門をくぐる若者たちがいる。かつての乙女の園であった頃の面影を知る者は、もはや誰もいない。
クスノキの下で 藤田大腸 @fdaicyou
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