チームを率いて

 東條は目が覚めた。

 白い天井が見える。

 意識がぼんやりしており、今の自分の置かれている状況がつかめない。

 首だけを動かしてあたりを見渡すと、病院の一室のようだ。

 東條は、病院のベッドに寝ている。

 体を動かそうとしたが、体がとんでもなく重い。疲労感が漂い、かなり力をこめなければ起き上がることができなかった。

 やっとのことで上半身を起こした東條に目に映ったのは、ベッドの横で、椅子に座っている白川だ。

「東條司令官!目が覚めたんですね!」

 東條は驚く白川を見て、何が起きているのかが分からず、声をかけようとした。

 だが、思うように声が出ない。

「良かった…。一週間も目を覚まさなかったんです。代わりばんこで病院に付き添いしてました…。みんな心配してたんですよ。」

 白川は涙目でそう伝えた。

 東條は、意識がぼんやりしていてものの、白川を見ながら次第に最後に見た状況を思い出した。

 西陣に”停止”をかけ、そのまま意識を失ったのだ。

「に、西陣は!?”石”は!?」

 東條の声はひどくガラガラ声だった。それでも白川には東條が言ったことが伝わったようだ。

「東條司令官のおかげで、”石”は無事に移送完了しました。西陣前司令官は、亡くなりしました…。」


 東條は白川から、東條が倒れてからのことを聞いた。

 西陣は能力が暴走して亡くなり、エノトスの他のメンバーは捕獲された。

 北折だけは、能力を”石”で無効化される前にテレポートで逃げたという。なんとも厄介な能力である。

 その後、”石”は無事、目的地に移送され、深海で保護されているという。

 東條が意識を失っていた一週間の間、サポートチームの代理指揮官と各サブチームのリーダーが指揮を務め、業務を遂行していたとのことだ。

「一週間、大変だったんですよ。」

「ご迷惑をおかけしました。」

 そう言いながら、東條は自分がいなくても一週間問題なく業務を遂行できるような組織になっていることに、うれしさを感じた。

 那須賀が言っていた。

『究極、メンバーがすべて優秀なら、マネジメントなんてなくても目的が達成できる。』

 メンバーが優秀になってきたということなのだ。マネージャーとして喜ばしいことだった。


 東條は白川の話を聞きつつ、自分の体に違和感を感じていた。

 これまで自分と共にあった何かが、なくなっているような感覚であった。

 東條はその違和感を確認するため、白川に言った。

「すいません、これから白川さんに”停止”をかけようとしてよいですか?調子を確認したいのです。」

「かまいませんよ。」

 東條は白川に”停止”をかけてみたが、全く何も起きなかった。

 自分の体から、なくなった何かとは、異能の力のようであった。

 これは、一時的なことなのか一生続くことなのか、東條には分からなかった。何にせよ、能力を限界まで使ったことで、なんらかの代償が出ているのだろう。

 異能の力がなくなったかもしれない、ということを聞いて、白川が驚いた顔をした。

「これで、完全にプレーヤーは卒業ですね。ヒーローとしては戦えなくなりました。」

 東條は少し悲しそうに笑いながら言った。

「東條司令官は、マネージャーのほうが似合ってますよ。これからもお願いします。

 それに、私たちのビジョンは、異能者でも非異能者でも関係ないことですから。」

 白川が答えた。


 "異能者と非異能者が共存できる社会にする”。

 東條が異能者だろうが非異能者だろうが、実現したいという気持ちに変わりはない。

 ビジョンが人を動かす。


 東條は、これからもマネジメントを実直に実践していくことを、心に誓った。

「こちらこそ、マネージャーとしてよろしくお願いします。」

 東條は笑ってそう答えた。


 ★終わり★

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ヒーローの管理職 3つのマネジメント 爽一郎 @bonzinkun

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